それは感動的な半面、仮面舞踏会のようなムードの奇妙な式だったのではないか。 七月八日、ワシントン郊外ラングレーの米中央情報局(CIA)本部で行なわれたジョージ・テネット長官の退任式のことである。 アレン・ダレス長官に次ぐ二番目に長い任期中、十一人ものCIA職員が殉職した。対テロ戦争を挟んだ難しく激しい時期だった。 約千五百人の職員を前に、妻と息子ら家族を横にしたテネット氏は上気した雰囲気で、人知れぬ要員たちの業績をほめ、感謝した。 あまり話したことのない、ギリシャ移民の両親、家族のことにも触れた。心臓外科医である双子の兄と毎週金曜日に互いの職業を交換するという冗談も紹介した。「兄はCIA長官をやれても、私は彼の患者に近づいただけで医療事故保険が急上昇する」と笑わせた。 来賓のロバート・モラー連邦捜査局(FBI)長官は「彼は私の愚直さに付け入ることもできたが、そうしなかった」とほめた。9.11テロで責任をなすり付け合ったとの噂などどこ吹く風だった。 ドナルド・ラムズフェルド国防長官も笑顔で「国防総省と情報コミュニティ間の連携を助けるという彼の任務は高く評価されている」とたたえた。イラク戦争前、フセイン政権の大量破壊兵器保有やアル・カエダとの関係をめぐる情報評価でCIAと国防総省は水面下で“神経戦”を戦ったが、そんな後遺症は感じさせなかった。

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