チュニジア革命の「詩」と統治の「散文」

執筆者:池内恵2011年1月28日

 もしある日、人々が「生きたい」と願ったら
 運命は応えてくれるだろう
 夜は明け染める
 手鎖は切れ落ちる
 生命を追い求めない者など、切に望まない者など
 煙と消えていく、吹き散らされる


 アブー・カースィム・アッシャーッビー「生への願い」『生命の詩集』より
 

 チュニジアでベンアリー政権が崩壊した時、多くのアラブ世界の知識人たちがこの詩を連想したという。この詩を書いた夭折の詩人アッシャーッビー(Abu al-Qasim al-Shabbi; 仏語表記はAbou el Kacem Chebbi 1909-1934)は、チュニジアのトズールに生まれ、たった1冊の詩集を残してこの世を去った。死の遥か後の1955年にエジプトで刊行された『生命の詩集』は、アラブ近代のロマン派詩の最大の到達点とされる(M. M. Badawi(ed.),Modern Arabic Literature, Cambridge Universtiry Press, 1992, p. 127)。愛と生命をテーマにしたアッシャーッビーの詩は、1950年代、英・仏の植民地主義へ対抗する民族主義が高まった頃、抑圧に立ち向かう人々の心を鼓舞するものとして広まり、初等教育の教科書にも盛り込まれてきた。アッシャーッビーのもう1つの著名な詩「世界の専制君主に」の冒頭は次のようだ。

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