新興国需要を取り込まなければ生き残る道はない(中国の製鉄所)(c)EPA=時事
新興国需要を取り込まなければ生き残る道はない(中国の製鉄所)(c)EPA=時事

 新日本製鐵と住友金属工業が2012年10月に経営統合に踏み切ることを決めた。鉄鋼業界の国内トップと3位の事実上の合併は、10年前であれば国内の産業再編の大ニュースだっただろう。だが、統合発表のニュースが流れた2月3日の夕方、産業界、金融界には驚きの声も興奮もなかった。産業界、金融界で相次ぐ大型の経営統合、M&A(企業の合併・買収)でニュースが与える刺激の「閾値」が上がったわけではない。グローバル市場を見ていれば、今回の統合はあたり前であって、むしろここまで決断を先延ばししたことがニュースになりかねなかったからだ。

統合の本質は「成長戦略」

 新日鐵、住金、神戸製鋼所の3社は02年11月に業務・資本提携に踏み切った。同年9月に川崎製鉄とNKK(日本鋼管)が合併し、JFEスチールが誕生したことに加え、海外から買収攻勢を受ける懸念があったからだ。3社は05年12月の追加取得も含め、株式を持ち合うことで敵対的買収に備える体制をつくった。仮想敵は言うまでもなく、インド人のラクシュミ・ミタル氏だった。ミタル氏率いるミタル・スチールは06年6月に当時の世界最大手だった欧州のアルセロールを実質的に買収し、粗鋼生産量が1億トン超という圧倒的な規模を持つ鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタルが誕生した。
 新日鐵はアルセロールの前身のユジノールと、製品供給、技術交流で長年の付き合いがあり、ミタルからの強引な買収手法を間近にみた。下手をすればアルセロールの次に時を置かず、新日鐵が買収提案を受ける恐れもあった。それが、今回の統合の心理的な背景になったことは間違いないだろう。だが、それは新日鐵-住金統合の本質からははずれるだろう。両社の狙いは、成長戦略だからだ。
 1990年に7億7000万トンだった世界の粗鋼生産量は、10年に14億1000万トンに達した。20年間で2倍近くまで膨張したわけだ。その増加には大きな特徴がある。90年から2000年の10年間では8000万トンしか増えなかったのに対し、2000年から10年の10年間には5億6000万トンも増えているのだ。20世紀後半の半世紀の生産量の伸びが6億6000万トンであることをみれば、2000年から10年までの鉄鋼需要の伸びがいかに大きかったかが理解できるだろう。
 この需要増加は言うまでもなく、中国、インド、ブラジルなど新興国と、サウジアラビアなど中東産油国、オーストラリアなど資源国が創り出したものだ。鉄は家電製品や日用品から道路、ビル、港湾などの建設事業、自動車などに幅広く使用される。インフラ建設やモータリゼーションが進む高度成長期にはどの国も鉄鋼の需要は急増する。新興国が世界経済を牽引するほどの力を握るようになるとともに、鉄鋼需要は人類史でかつてない勢いで膨張したのである。

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