アジアを覆う人手不足の波

執筆者:森山伸五2011年3月8日
工場立地として再び注目されているタイ(トヨタの自動車工場)(c)AFP=時事
工場立地として再び注目されているタイ(トヨタの自動車工場)(c)AFP=時事

 タイの首都バンコクから東南方向に向け高速道路を走れば、スワンナプーム国際空港周辺に始まり、アマタ、シラチャといった工業団地やそれらの周辺など100キロ圏内に、日系、韓国系、ドイツ系など外資企業の工場が集中立地しているのを見ることができる。タイの最大の産業である自動車で言えば、トヨタ、日産、いすゞ、三菱自動車、米ゼネラル・モーターズ(GM)など完成車メーカー、様々な部品メーカーの工場群がこのエリアにある。昨年3月から5月にかけてバンコクの中心部で展開されたタクシン派(赤シャツ)と反タクシン派(黄シャツ)の流血の衝突の最中にも生産活動が揺るがなかった、まさにタイ経済を支える地域といってよい。

タイ、中国、韓国でも工場労働者が不足

 この地域で今、工場労働者の人手不足が深刻化しつつある。10歳代後半から20歳代の労働者の確保が困難になっているのだ。外資系メーカーはミャンマーやラオスから若年労働者を呼び、何とか必要な人員を確保しようとしているが、状況は厳しい。タイは東南アジア諸国連合(ASEAN)のなかで最も部品産業が発展しており、その基盤を活用しようとする外資の進出ラッシュが起きている。中国が人件費高騰、人民元高のダブルパンチによって、輸出型生産拠点としての競争力を落とすなかで、1990年代に脚光を浴びたタイが再び工場立地として注目されているのだ。
 中国も沿海部の工場では人手確保が難しくなっており、とりわけ今年2月初旬の春節(旧正月)明けには、中国企業も含め多くの工場が、内陸農村などに帰省したまま帰って来ない労働者の多さに頭を抱えた。中国政府がリーマンショック後、景気刺激策として内陸を中心にインフラ建設事業や工場の移転を進めた結果、内陸でも就職先が増えたことが背景にある。そのため、中国にある工場の一部は内陸に動くか、ミャンマー、ラオス、インドネシアへの移転を加速している。中国とタイで労働市場の逼迫感は共通しているのだ。
 世界第5位の自動車メーカーに躍進した韓国の現代・起亜グループ。その競争力を支える部品メーカーは空前の人手不足に苦しんでおり、工場の生産ラインには4、5年前の日本と同じようにアジア系、南米系などの外国人の姿が目立ち始めた。多いのは中国人、モンゴル人、スリランカ人の作業者たちで、ある部品メーカーではライン作業者の10%以上がスリランカ人という。その企業の人事担当者が現地に出向いてリクルートし、滞在ビザ、労働許可証の発行など正規の手続きを経て入国させた。韓国のエレクトロニクス、自動車などのメーカーは日本の同業に比べ、生産拠点の海外展開は遅れており、依然として韓国からの輸出が主軸。それだけに韓国内の生産拠点での労働力不足は致命的だが、韓国自体は日本を上回る少子化で、若年労働力の確保は難しい。外国人呼び込みは宿命になりつつある。

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