中国「ジャスミン革命騒ぎ」の虚実

執筆者:ふるまいよしこ2011年3月14日

[北京]チュニジアで政権を崩壊させ、エジプトなど中東諸国へと飛び火した「ジャスミン革命」は、フェイスブックやツイッターなどの「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」(SNS)が情報発信に起爆的な役割を演じたことで、別名「SNS革命」とも呼ばれる。しかし、わたしはなによりもこれらの政変によって、日本の社会全体がSNSに「開眼」した、あるいはそれを「見直す」きっかけとなったという意味でも革命的だったと思う。これまではネットで流れる情報には意味がないと思っていた人たちが、中東で起こった現実を目にして、その力をポジティブにもとらえるようになった。特にマスメディアの変化は顕著だ。

膨らみ続けた「革命」への期待感

 2月20日を前に一部の海外ウェブサイトやフェイスブック、ツイッターを通じて「中国ジャスミン集会」の呼び掛けが行なわれた。この情報に日本のマスメディアが飛びついたのも、そんな「SNS開眼」の興奮が大きく影響していたのだろう。その後、日本語のツイッターでは、大手日本メディア各社が流した、「フェイスブックで中国でジャスミン革命呼び掛け」の話題に、中東での興奮を共有してきた読者や視聴者の「期待感」は膨らみ続けていた。
 一方、中国では、とっくにSNS利用に慣れ親しみ、中国語ツイーター(ツイッター利用者)の間でも情報提供者としてすっかり溶け込んでいる西洋人記者たちがその「呼び掛け」を話題にしていたが、集会前夜には彼らの多くがすでにその実現性は低いという見解をツイッターで流していた。また、中国ではフェイスブックは、ツイッターと同じく一般ユーザーが簡単にアクセスできるメディアではなく、10万人のアクティブユーザーを持つツイッターほども知られておらず、どう考えても中東のように爆発的な力を持ちえないという続報は中国駐在記者からは一本も流れなかった。
 というのも、日本のマスメディアは中国で30カ所以上に駐在記者を置いているが、そのうちすでに日常的にツイッターやフェイスブックを活用していたのは10人にも満たなかったはずだ。もちろん、西洋発祥のSNSを西洋人記者たちが日本人より早く活用したことは不思議ではないが、日本国内の「SNS開眼」に煽られた、「中東革命の中国飛び火」情報を前に、日本人記者には中国におけるツイッター事情やフェイスブック事情を理解する余裕はなかった。そのため彼らは、ツイッターで「ジャスミン集会」を声高に叫んでいたのが、ほとんどが国内ではなく海外居住者の中国語アカウントだったという点を見抜くことができなかった。

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