台湾総統選「双英対決」の微妙な争点

執筆者:野嶋剛2011年6月21日
野党民進党の蔡英文主席の戦略は?(C)時事
野党民進党の蔡英文主席の戦略は?(C)時事

 4年に1度、台湾全土がお祭り騒ぎになる台湾総統選挙が半年後に迫っている。国民党の現職・馬英九総統に挑むのは、民進党のニューリーダー、蔡英文党主席。2人の名前にはくしくも共に「英」の文字が入る。この「英」は一族の世代間で共有される輩行字にあたり、中華世界では重要な意味を持つ。メディアは「双英対決(ダブル英の戦い)」と今回の総統選を命名した。 「双英対決」の命名には単なる名前の問題だけではなく、2人の共通点に対する世間の暗喩も込められている。  馬英九と蔡英文は台湾の戦後教育において、それぞれの名前通りの「俊英」、つまり超エリートとして育てられてきた。そして、性格、経歴、リーダーシップの手法など多くの面で2人はよく似ている。その意味で、今回の総統選は「ダブル英」による「似たもの同士の戦い」と位置づけられているのだ。

エリート、記者泣かせ

 馬英九は1950年、国民党関係者だった両親のもと香港で生まれ、すぐに台湾に移り住んだ。台湾大学法学部を卒業し、ニューヨーク大学で修士、名門のハーバード大学で博士を取得。台湾に戻ると、当時の蒋経国総統の英語秘書に起用され、後に対中政策の要である大陸委員会副主任委員に起用された。李登輝政権下の1993年には法務部長に就任し、汚職摘発で名をあげ、甘いマスクもあって世間で馬英九ブームが起きた。「未来の総統候補」の呼び声が高くなり、1998年には現職の陳水扁を破って台北市長に就任。同市長を2期8年務めた後、2008年の総統選で圧倒的な勝利を収めた。
 一方、蔡英文は客家の血統を持つ有力な一族の出身で、1956年に台湾南部の屏東県で生まれた。台湾大学法学部を卒業後、米国コーネル大学で法学修士、英国の名門ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで法学博士をそれぞれ取得。国際法の専門家として若くして政治大学教授に就任した。蔡の能力に目を付けた当時の李登輝総統から国家安全会議諮問委員(閣僚級)に起用され、「中国と台湾は特殊な国と国との関係」とした李登輝の「二国論」の立案にも関与した。民進党の政権獲得後も大陸委員会主任委員に起用され、2006年から2007年には行政院副院長(副首相)として活躍した。
 台湾や海外の最高学府で法律を修めた若きエリートとして時の政権に重用され、クリーンな政治姿勢や理性的な言動を売り物にする2人。メディアが出す記事の間違いには2人とも敏感で訂正をすぐに求める記者泣かせでも知られ、「馬校正」「蔡校正」というあだ名まで同じである。

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