ついにフランスの格付けまでが揺らぎ始めた(サルコジ仏大統領)(c)EPA=時事
ついにフランスの格付けまでが揺らぎ始めた(サルコジ仏大統領)(c)EPA=時事

 ナポレオン戦争後の欧州秩序を協議した1814年から15年にかけてのウィーン会議は、小田原評定の典型である。この会議の舞台裏で演じられたロシア皇帝・アレクサンドル1世とウィーンの街娘の夢のような逢引を描いたドイツ映画が、1931年に封切られた「会議は踊る(Der Kongress tanzt)」だ。  ナチズムが席巻した欧州から新大陸に逃れたユダヤ人作家シュテファン・ツヴァイクが1940年に、絶望の淵で描いた自伝「昨日の世界(Die Welt von Gestern)」。そこには20世紀初頭のウィーンの知的世界と社交界が、失われた甘美な時を慈しむ筆致で描かれている。  先進国と呼ばれる世界が今、直面しているのも恐らく同様な崩壊感覚であろう。リーマン・ショック以来の米国の停滞とギリシャに端を発した欧州の混乱は、それまで自明のものとされてきた世界秩序を大きく揺さぶっている。文明論的な分析は後回しにして、今起きている出来事を即物的にスケッチすることから始めよう。

壊れてしまった経済の歯車

 主戦場は欧州の国債市場である。ギリシャはもはや学級崩壊ならぬ、統治崩壊のただ中にある。国債が売り込まれ、利回りが20%を超えたからといって、何の驚きもあるまい。危機がイタリアに飛び火したのも意外感はない。ベルルスコーニ前首相がカネと女の乱脈を極め、政治を滅茶苦茶にしたことが統治への信認を失墜させた。
 両国は学者出身の新首相を迎え信認回復に躍起だが、いったん壊れてしまった経済の歯車を元に戻すのは容易ではない。ギリシャの銀行預金残高は9月末現在で1832億ユーロ(約19兆円)。8月の残高は1887億ユーロだったから、預金は1カ月で3%も減っている。過去の預金残高のピークは、2009年10月の総選挙で誕生したパパンドレウ前政権が、それまでの政権による財政の粉飾を暴く寸前の2009年9月の2387億ユーロ。それ以来の減少率は23%にのぼる。
 引き出された資金は、あの手この手でギリシャ国外に持ち出されているとみられる。そして、これだけの預金が流出してしまったら、ギリシャの銀行システムが持つはずがない。各行は手持ちのギリシャ国債を担保に資金を融通してもらおうと、欧州中央銀行(ECB)に駆け込んでいる。9月時点でECBからの資金借り入れは778億ユーロに達した。
 ギリシャ国債の格付けはデフォルト(債務不履行)を意味するD格よりわずか2段階上のCC格。紙屑同然の国債を担保にギリシャ銀に融資するECBは、ギリシャの金融と経済の生命維持装置のようなものだ。

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