今年の通常国会が1月24日に召集され、与野党の本格的な論戦が始まった。今国会最大の焦点となるのは「社会保障と税の一体改革」だろう。しかし、野田佳彦首相の前に2種類の敵が立ちはだかっている。ひとつは党外の敵、つまり野党。もうひとつは党内の敵、小沢一郎元代表のグループである。この2つの敵のこれまでの主張や動向を見るかぎり、野田首相が政治生命をかける消費税増税などに賛成する可能性は小さい。増税法案を含む一体改革関連法案の成立はきわめて困難な状況にあると言っていいだろう。

「輿石発言」の怪

 1月19日、一体改革や選挙制度改革を話し合うため、与野党の幹事長会談が国会内で開かれた。各党の意見陳述が一巡した後、民主党の輿石東幹事長が全体を総括した。
「社会保障と税の一体改革については国会の場で議論する……以上で終わります」
 この発言に野党側出席者はどよめいた。公明党の漆原良夫国会対策委員長は思わず隣に座っていた民主党の城島光力国対委員長に尋ねた。
「わからんなあ。だったら、この会議は何のためだったの?」
 野党側が驚くのも当然である。
 政府・与党は1月6日、消費税の税率を2014年4月から8%へ、2015年10月から10%へと引き上げることなどを含む一体改革の大綱素案を決定した。これを受け、民主党はまず野党に協議を呼びかけ、野党と話し合った上で大綱を作成し、それを法案にまとめて3月までに国会に提出するという手はずだった。
 そもそも民主党は、輿石氏が言うような「国会の場」でのいきなりの議論を嫌っていた。消費税増税に関する意見の隔たりが大きいから、表舞台での議論が紛糾して収拾がつかなくなることを恐れていたのだ。このため、国会での議論の前段に野党側と入念に意見調整をしたがっていた。それがこの会議の趣旨だったのだ。
 ところが、野党からの意見聴取もそこそこに、輿石氏が「国会の場で議論する」と話し合いの幕を下ろしてしまった。野党は面食らっただろう。
 だが、それと同時に野党は、しめしめとほくそ笑んだのではないか。輿石氏が協議を国会の場に移してくれたのは、野党にとって歓迎すべきことだからだ。

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