仏大統領選展望・投票前の「もう一つの関門」

執筆者:国末憲人2012年3月5日

 フランス大統領選では、第1回投票で有効投票の過半数を得る候補者が現れない限り、決選投票が実施される。この国に関心がある人なら、まず知っていることだ。では、この2回の投票に加えて「第3の選考」と呼ばれるもう一つの関門があるのをご存じだろうか。


 大統領選には、たとえ被選挙権があっても、誰でも立候補できるわけではない。届け出が受理されるためには、国会議員や地方議員、自治体首長ら500人の推薦署名を集めることが義務づけられている。個別のテーマを主張する弱小候補者、遊び半分のお騒がせ候補者らは、この関門の前に実際の立候補を阻まれてきた。


 ただ、フランスは日本のような市町村合併がない。自治体だらけで、署名する権限を持つ議員らも仏全土で約45000人いるといわれる。だから、まっとうな候補者なら、500人ぐらい簡単に集めることができるようにみえる。


 ここに落とし穴がある。署名は官報に掲載されるから、どの自治体議員がどの候補を支持したか、公表されてしまう。これがネックとなって、右翼「国民戦線」は毎度毎度、署名集めに苦労してきた。議員や首長で「右翼を支持した」とばれると、地域社会でも白い目で見られがちだ。嫌がらせを受ける例も報告されている。実際、現党首マリーヌ・ルペンの父で党の創設者ジャンマリー・ルペンは一九八一年、大統領選で500人の署名を集めることができず、立候補断念に追い込まれた。

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