政治家を追い落とす武器といえば、「カネと女」にまつわる醜聞が通り相場だが、最近はこれに「論文盗用」が加わっている観がある。昨年春、ドイツの次期首相有力候補と目されていたグッテンベルク国防相(当時)が博士論文の盗用疑惑で辞任したのに続き、今年4月にはハンガリーのシュミット大統領も盗用疑惑で辞任した。今年5月に就任したばかりのルーマニアの若き左翼政治家ポンタ首相(39)にも博士論文の盗用疑惑が持ち上がった。

 が、ポンタ首相は辞任を拒み、それどころか盗用疑惑を煽ったのは宿敵バセスク大統領(職務停止中)=(60)=の陰謀であるとして、バセスク氏失脚を図る熾烈な反転攻勢に乗り出した。ポンタ首相が矢継ぎ早に繰り出す手筋は「クーデター」さながらであり、ルーマニアは今、チャウシェスク独裁体制を打倒した23年前の革命後、最悪と言われる政治危機に陥っている。

 無論、目下の「ルーマニアの変」は、鼎が沸いたような欧州債務危機が背景にある。ポンタ氏が首相の座を射止めたのは、バセスク氏が取り仕切る中道右派政権の進めた緊縮政策に対する国民の不満が高まっていたためだった。こうした中で、論文疑惑は対立する両者が、「政治的な命のやり取り」に乗り出す1つのきっかけになったのだった。

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