中国に実効支配されるロシア極東

執筆者:名越健郎2012年8月7日

 7月21日にNHK-BSで放映されたドキュメンタリー番組「大地は誰のものか-ロシアを耕す中国人」は、過疎化が進むロシア極東部に中国農民が進出し、広大な農地を耕していることを伝える興味深いルポだった。

 旧ソ連時代、バイカル湖以東の極東の人口は約900万人だったが、ソ連崩壊後の生活苦に伴う人口移住で、現在は620万人まで低下した。2015年には500万人まで低下するとの予測もある。このため、極東では膨大な休耕地が生まれ、そこに農地の少ない黒竜江省など中国東北部の農民が大量に押し寄せて大豆や野菜の収穫をしていることを伝えた内容だ。

 番組に登場した黒竜江省の張さん兄弟は対岸のハバロフスク地方の100ヘクタールの農地をレンタルし、電気も水道もないトレーラーハウスに5カ月間住み込んで耕作する。中国農民の平均的耕地面積の50倍で、年収は300万円と本国の15倍に上る。生活・労働環境は過酷でも、収穫期をここで頑張れば、一攫千金が可能なのだ。土地のレンタルや入国手続きは中国の農業関連企業が処理してくれる。

 番組では、中国農民とロシア農民の生産性の違いも紹介された。中国農民は本国から持ち込んだ種子や大量の肥料を使用し、懸命に働いてロシア人農場の3倍の収穫を上げるという。農地の再生能力を無視した収奪農法だ。これに対し、隣接するロシア農場では、ソ連時代の集団農場の伝統が残り、農民はウオツカをあおり、仕事をさぼっている。どう見ても、この勝負は中国の圧勝だろう。

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