オバマ米大統領の外交・安保戦略は非常に分かりにくい。オバマ氏はリベラル勢力を支持母体にしながら、そもそも情報公開に消極的で、安保戦略の実像を見せようとしない。特に対中戦略では、中国を刺激しないため、重要な戦略的成果を挙げても決して誇示したりしないのだ。
 今年1月、オバマ政権が発表した国防戦略指針は事実上、中国を敵視している。
 中国が21世紀に入り、資源調達および地政学的必要から重要な拠点として確保したのは資源輸送の動脈に位置するミャンマーであり、産油国であるスーダンであった。
 実はオバマ政権は、これら2つの拠点の切り崩しに成功していたのだ。表面的には「ミャンマーの民主化」であり、「南スーダンの分離独立」であった。だが、その現実は、戦略的要衝であるミャンマー、さらにスーダンの油田から事実上中国の影響力を排除したに等しいのである。
 オバマ政権は果たして、どのような対中秘密工作を展開したのか、断片的ファクトを追い、真相を探ってみたい。

中国企業のダム建設反対運動にテコ入れ

 まず、ミャンマーの劇的な政治的変化はいかにしてもたらされたか、だ。
 ミャンマー民主化は、2011年3月発足したテイン・セイン政権による民政移管、さらに民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)を解党させた政党登録法を改正してNLDを復活させ、12年1月に「全政治犯」を釈放させる、といった経緯をたどった。
 問題は、ミャンマー民主化とほぼ並行して進行した中国との関係の分断の動きだ。
 ミャンマー北部カチン州のイラワジ川上流で、中国国有企業「中国電力投資集団」が36億ドル(約2800億円)を投資して、ミャンマー企業と合同で09年から建設を進めていた水力発電用の「ミッソンダム」の建設中止がそのきっかけになった。中国との関係が良かった軍事政権は建設を推進しようとしたが、テイン・セイン大統領は住民の反対運動を理由に建設を中断した。
 実はその裏で、在ミャンマー米大使館が反対運動グループを支援していたことが分かった。内部告発サイト「ウィキリークス」が入手した2010年1月付のディンガー駐ミャンマー臨時代理大使が国務省宛に送った電報にその事実が明記されていた。
 11年9月30日付英紙ガーディアンに掲載された電文によると、建設反対運動組織には同大使館から「少額の補助金」を受け取っていたグループもあった、というのだ。米国がダム建設反対運動を支援していたのである。
 この補助金とはどのような種類の資金か不明で、補助金を受け取っていた組織名も明らかではない。米中央情報局(CIA)からの資金供与の可能性も否定できないが、米国の非政府・民間団体からの資金供与の可能性もある。
 また、世界各地の民主化支援資金を供与している全米民主主義財団(NED)のホームページによると、ミャンマー民主化向けに計400万ドル(約3億2000万円)以上の活動資金供与先を募集している。
 NEDは1980年代に海外の民主化支援のために米議会が設置した非政府組織。米国の民間団体などとも協力して活動資金を供与しており、事実上米政府の別働隊である。
 いずれにせよ、米国の官民がミャンマーと中国の分断に動いたとみていい。
 中国は、インド洋に臨むミャンマーのシットウェ港を租借。そこで石油を荷下ろしし、パイプラインで中国・雲南省に輸送する計画。パイプライン建設は10年9月起工した。
 果たして、現代版「援蒋ルート」とも呼べるパイプライン建設は継続されるのかどうか、きわめて注目すべき段階を迎えそうだ。

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