破滅前夜

執筆者:白戸圭一2012年9月27日

 長期にわたる経済の低迷。巨額の政府債務。失業の増加。長期に及ぶ一党支配の終焉後、国民と無縁なところで権力闘争を続ける政治家たち。体制寄りの政治メディア。閉塞感を他者への攻撃で解消する社会の風潮。国民の期待を集める扇動型政治指導者の登場。ナショナリズムの高揚と排外主義の台頭。近隣国との関係悪化......これは西アフリカ・コートジボワール共和国の1990年代の状況である。

 今から10年前の2002年9月19日、コートジボワールで内戦が勃発した。かつて「象牙の奇跡」と言われる経済発展を謳歌した同国は南北に分断され、国民生活は崩壊した。内戦の始まりは北部を拠点とする離反兵士750人の武装蜂起であり、同国の内情を知らぬ外国人にとって、それは突然の出来事に見えた。だが、内戦は冒頭に述べたような政治・経済・社会状況の帰結であった。

 1960年の独立から33年間、コートジボワールを統治したのは初代大統領のフェリックス・ウフェ・ボワニだった。旧宗主国フランスや米国との協調を重視する政策はコートジボワールに繁栄をもたらし、1960年から80年までの実質経済成長率は年率平均6.2%を記録した。筆者は同国を二度訪れたことがあるが、事実上の首都であるアビジャン(法律上の首都はウフェ・ボワニの出身地であるヤムスクロという小都市)は、ガラス張りの高層ビルの間を高速道路が縫うように走る巨大都市である。

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