最初にレスター・サローの『知識資本主義』(ダイヤモンド社)という本を手にとったとき、「堺屋太一の知価革命」みたいな印象を受けた。要するに、「なんとなく、真新しくはないな」と。 レスター・サローは、誰もが名前だけは知っている経済学者である。一九八〇年に出版された著書『ゼロ・サム社会』は、世界的なベストセラーとなった。しかし、世界経済はその後も高成長を続けた。冷戦の終了期に書いた『大接戦』では、日米欧が経済でつばぜり合いをする時代が来ると予言した。が、一九九〇年代は米国経済の一人勝ちとなった。このことはサロー自身も後ろめたく感じているようで、本書の中で日本経済に対する見通しが外れたことについて言及し、「私はこれ以上の間違いを犯すことはできなかったろう」と懺悔している。 かくのごとく、サローは「当たる預言者」ではない。『大接戦』も、国際競争に関する初歩的な誤解があると、若き日のクルーグマン教授にバッサリ斬り捨てられてしまった。お陰でポール・クルーグマンはマサチューセッツ工科大学(MIT)に居られなくなったのだが、以後のサローは通俗的経済学者という評価がついて回るようになる。その彼は二十一世紀の世界経済をどう見ているのか。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。