西武グループ「つるべ落とし」の発車ベル

執筆者:杜耕次2004年12月号

有価証券報告書の虚偽記載が、まさか「堤王国」の崩壊につながるとは思いもしなかったに違いない。だが、意図的なルール違反のペナルティから逃れることはできない。 十月十三日午後六時半、新高輪プリンスホテル(東京都港区)の三階「平安の間」には、異様な緊張感が漲っていた。 正面に向かって右側には,小柳皓正社長(六四)以下西武鉄道の役員陣、左側にはコクドやプリンスホテル幹部とみられる面々が、それぞれ二十人程度ずらりと並び、「その時」を息を呑んで待ち構えていた。この日の主役が左手から正面の席に向かったのを合図に、スタッフ数人が報道陣席にサッと駈け寄り、新たな発表資料を一枚ずつ手渡していく。A4の紙の中ほどに「コクド及びグループ各社のすべての取締役その他の役職を辞任し、経営の第一線から身を引くことといたしました」との一文が記されていた。 コクド会長(当時)、堤義明(七〇)の辞任表明会見はこうして始まった。不意をつかれた記者たちは一瞬の間を置いて慌しく携帯電話を手に取り、早口で社に「西武グループ総帥、引責辞任」の一報を入れ始めた。マイクの前で一礼して着席した堤は目の前の喧騒に構わず、配布したばかりの文面を読み上げ始めた。

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