“不発”に終わった「行方不明の爆薬」事件

執筆者:春名幹男2004年12月号

 十月二十四日、日曜日の夜、米CBSテレビのニューズマガジン「60ミニッツ」のプロデューサー、ジェフ・フェーガー氏にニューヨーク・タイムズ紙のビル・ケラー編集局長から電話があった。「われわれは月曜日に行きますよ」 こうして翌二十五日付の同紙に、バグダッドの南方約五十キロの旧イラク軍アルカカー基地の爆薬貯蔵庫から、約三百八十トンの高性能爆薬が、米軍のイラク侵攻後に行方不明になった、との特ダネ記事が掲載された。 直ちにこの記事を確認する形で、国際原子力機関(IAEA)は、爆薬三百四十トン以上が行方不明、との事実を記者発表した。 行方不明になった爆薬は、HMX百九十五トンとRDX百四十一トンなど。ニューヨーク・タイムズの記事とIAEAの発表で爆薬の量が違っていたのは、前者がアメリカ式に「ショートトン」で計算したためだった。 RDXは、現在米軍が最も重用している爆薬。ロイヤル・デモリション・エクスプローシブの略だ。プラスチックと混ぜてつくるC4はテロ組織もよく使用する。 HMXはハイ・メルティング・エクスプローシブの略。高温での爆発能力が高く、核爆発装置で核分裂物質の内爆用に使われるほか、ロケットの推進材ともなる。IAEAがこの問題に関与しているのは、HMXが核兵器の起爆剤に利用できるからだ。

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