苦境のプーチンが抱く「ミニ・ソ連」の秘策

執筆者:名越健郎2005年4月号

グルジア、ウクライナに続き、モルドバでも親欧米政権が選挙で勝利した。ソ連邦の復活を目指すプーチン大統領が温める策略とは――。[ティラスポリ発]旧ソ連圏で今はなき「ソビエト連邦」の面影を最も色濃く残す地域は、モルドバ東部のドニエストル川東岸だろう。 十八世紀からロシア人入植地だったドニエストル地方は、一九九〇年、モルドバの民族主義政策に反発し「沿ドニエストル共和国」の設立を宣言。九二年春、ドニエストル駐留ロシア軍とともにモルドバ軍と「独立戦争」を戦い、双方で千人近い死者を出した。停戦後の政治交渉は不調に終わり、モルドバ側との厳しい冷戦が続いている。共和国はロシアを後ろ盾にし、十五年間事実上の独立を維持。現在も千六百人のロシア軍が「平和維持」の名目で駐留する。 モルドバとウクライナに挟まれた面積四千平方キロメートル、人口約六十万人の小さな細長い共和国は、独自の憲法、議会、自衛軍を持ち、世界のどの国からも認知されない集団である。同時に、旧ソ連のユートピアだ。人口十八万の首都ティラスポリにはレーニン通り、マルクス通りが走り、議会や政府庁舎の前にはレーニン像。工場の屋根には赤旗がなびき、国章は赤い星にツチと鎌。独自通貨「ルーブル」が共和国だけで流通する。町のあちこちに記念碑や戦車が置かれ、英雄市民の写真が掲げられている。

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