皇帝ペンギンの子育ては壮絶だ。冬の始まりの三月のある日、海からあがって南極の氷原に立ったペンギンたちは、隊列を組んで百キロ先の営巣地を目指す。二十日あまりの行進のはて、オスとメスは何千羽の群れの中からパートナーを選び出す。 五月、メスはたったひとつ産み落とした卵をオスに託し、餌を採りに海へと戻る。体重を五分の一も落とし、産卵で疲労困憊した体を引きずって、ヒナと自分のためにまた百キロの道のりを戻るのだ。メスが戻るまでの間、オスは絶食して卵を暖める。七月、ヒナが孵っても母親が戻ってこない時、胃の中に残しておいた食べ物をもどしてヒナに与え、小さな命をつなぐ。 やがて魚を腹にためこんだメスが帰ってくると、今度はオスが海を目指す。しかし、極限まで体力を落としたオスにとって、これは相当に過酷な旅だ。 動物生物学修士にしてドキュメンタリー作家のリュック・ジャケ監督は、十三カ月間南極に滞在し、皇帝ペンギンの過酷な子育てを記録した。映画『皇帝ペンギン』は今年一月にフランスで公開されると、『ディープ・ブルー』など過去の話題作を超える大ヒットを記録した。「なぜ皇帝ペンギンは苦行のような子育てをするのか。そこに惹かれて映画を作ったわけですが、理由は簡単。生命の存続のためです。海の近くの氷は薄くて脆い。安全な場所で子育てをするには、どうしても内陸の営巣地でないと駄目なのです。

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