この国の民衆は、金正日政権と軍によって、内側から経済制裁を科されている。首都・平壌でつぶさに見た圧制国家の実態――。 北京での六カ国協議は、相変わらず北朝鮮ののらくらした対応と、世界の“主役”だと錯覚したかのような振る舞いが目立った。先に核兵器保有を公言したことで、一層強気の態度が覗くようになった。だが、裏腹に、国内の経済実態は強気になるべき要素が何もない。 北朝鮮の最高人民会議十一期第三回会議が開かれたのは四月十一日のこと。首相報告では工業生産の増減率が、財政相の報告では「歳入」の実額が、それぞれ明らかにされなかった。いくら国民にさまざまなことを知らせたがらない金正日政権といえども、史上初めての事態であった。 なぜ歳入を公表できなくなったのか。経済破綻で税収が期待できないからだ。北の経済実態を知るよすがとして、筆者自身が見た最高人民会議後の平壌の様子をレポートする。「銭湯」が急増したが―― 五月十六日から十九日まで、平壌で第八回国際商品展覧会(見本市)が開かれた。この時期は、平壌地方では田植えの季節であり、五月十八日から二週間にわたって工場労働者も「農村での田植え手伝い」に動員されていた。そのため、見本市の北朝鮮側参観者にも、通勤の人にも、長靴姿が目立った(もっとも、首相報告でわざわざ「製靴の新しい生産ライン導入」に言及していることからすると、実際には革靴そのものがなくなっているのかもしれない)。

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