首相への道を順調に歩んできたかに見える男。自民党を揺さぶる小泉首相の手法は、果たして彼を権力の座に近づけるのか、それとも――。「静岡七区に財務官僚の片山さつき氏を擁立しようと思う」 八月十日、小泉純一郎首相からそう打ち明けられた安倍晋三・自民党幹事長代理(五〇)は、言葉を飲み込んだ。 静岡七区選出の衆議院議員(前職)は城内実氏。二〇〇三年の衆院選で、保守新党と選挙協力した自民党の公認を得られなかったにもかかわらず、安倍氏が応援して当選した「安倍チルドレン」の一人だ。衆議院の郵政民営化法案採決に際しては、「今回は誠に申し訳ないが、将来の『安倍政権』実現に向けて全力で支えさせて頂きます」と、議場内で最後の説得に当たった安倍氏を振り切って、反対票を投じた三十七人のうちの一人となった。 八月八日、参議院本会議で郵政法案が否決されたのを機に衆院解散に踏み切った小泉首相は、武部勤幹事長に「反対票を投じた造反組のすべての選挙区に対抗馬を擁立」するよう指示する一方で、反対派の公認は頑として認めない方針だ。首相のお膝元である森派の城内氏とて例外ではなく、むしろあえて対抗馬を立てることで「首相の郵政民営化への一大決心を伝えることを狙った」(執行部)のだった。

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