注意深く選ばれたイラク憲法草案の文言

執筆者:池内恵2005年10月号

 イラク憲法起草委員会は、八月十五日の起草期限を何度も延長して修正を繰り返した末に、八月二十八日に最終草案を発表した。草案は国民議会の本会議で読み上げられたが採決は見送られ、十月十五日に行なわれる予定の国民投票に委ねられた。 イラク新憲法の起草作業では、(1)クルド地域の地位、(2)連邦制の導入、(3)イスラーム教の位置づけ、が注目されてきた。このうちクルド地域の地位に関しては、湾岸戦争以来、アメリカの庇護の下で達成してきた広汎な自治という既成事実を全面的に承認した形である。しかし、連邦制の全面的な導入に関してはスンナ(スンニ)派の反対が強い。国民投票で、十八ある県のうち三つの県で三分の二以上の反対があれば草案は否決され、国民議会は解散されて起草作業は振り出しに戻ってしまう。「啓示法」をめぐる政治闘争 イスラーム教の位置づけについては、草案で当面の着地点が明確になってきた。今回はアラビア語で書かれた草案全文(全一三九条)を検討しつつ、この問題を詳述してみたい(英訳「“Text of the Draft Iraqi Constitution,”New York Times, August 28」は冒頭宣誓文と最終の一三九条が欠けている。修正前の全一五三条の英訳も出回っている)。

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