中東―危機の震源を読む (10)

注意深く選ばれたイラク憲法草案の文言

執筆者:池内恵 2005年10月号
エリア: 中東

 イラク憲法起草委員会は、八月十五日の起草期限を何度も延長して修正を繰り返した末に、八月二十八日に最終草案を発表した。草案は国民議会の本会議で読み上げられたが採決は見送られ、十月十五日に行なわれる予定の国民投票に委ねられた。 イラク新憲法の起草作業では、(1)クルド地域の地位、(2)連邦制の導入、(3)イスラーム教の位置づけ、が注目されてきた。このうちクルド地域の地位に関しては、湾岸戦争以来、アメリカの庇護の下で達成してきた広汎な自治という既成事実を全面的に承認した形である。しかし、連邦制の全面的な導入に関してはスンナ(スンニ)派の反対が強い。国民投票で、十八ある県のうち三つの県で三分の二以上の反対があれば草案は否決され、国民議会は解散されて起草作業は振り出しに戻ってしまう。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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