旧東ドイツで現実味を増す「AfDから州首相」のシナリオ

執筆者:熊谷徹 2026年2月20日
タグ: ドイツ
エリア: ヨーロッパ
ドイツ初のAfD党員の州首相誕生が現実味を増す[州首相就任の可能性が注目されるウルリヒ・ジークムント氏(右)](C)AFP=時事

 今年9月6日に旧東ドイツのザクセン・アンハルト州で行われる州議会選挙では、右翼ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)が単独で議席の過半数を獲得するシナリオが浮上している。ドイツ初のAfDに属する州首相誕生が現実味を増す中で、首相就任の可能性が注目されているのがウルリヒ・ジークムント氏だ。連邦憲法擁護庁によるAfD全体の「極右認定」については現在も訴訟が続いており確定していないが、同氏が極右思想の持ち主たちと交流していることは事実だ。

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 ドイツの世論調査機関INSAが1月27日に公表した政党支持率調査によると、ザクセン・アンハルト州においてAfDは39%で首位にある。第2党のキリスト教民主同盟(CDU)に13ポイントもの差をつけている。去年10月の調査では、AfDの支持率は40%に達していた。

 ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は、州議会選挙でAfDが43%の得票率を確保し、緑の党、自由民主党(FDP)、ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW、2026年10月~社会的公正と経済的理性のための同盟)の得票率が5%に達せず、議席を取れなかった場合、AfDの議席数が過半数に達し、同党が単独政権を樹立できるとしている。この場合、ドイツで初めてAfD党員が州首相のポストに就く。ドイツの連邦議会や州議会では、小党乱立を防ぐための「5%条項」によって、得票率が5%に満たない政党は会派として議席を持てない。

 AfDの首相候補は、ウルリヒ・ジークムント氏(35歳)。室内用芳香剤を販売する企業の経営者で、2014年にAfDザクセン・アンハルト州支部に加わった。2016年にザクセン・アンハルト州議会議員に選ばれ、2022年からは同議会のAfD会派の共同院内総務の一人である。彼は顔がハリウッド俳優ライアン・ゴズリング氏にやや似ており、TikTokのフォロワー数は約61万人に達している。ドイツの一部のメディアは、「ドイツの政治家としては、TikTokで最も人気が高い人物」と評している。

 ただし捜査機関は、この州のAfDに厳しい目を向けている。ザクセン・アンハルト州内務省の憲法擁護庁は、2023年11月7日、同州のAfD支部を「確定的に極右の性格を持つ(gesichert rechtsextremistisch)組織」つまり反社会的な極右団体に指定した。

 ちなみにドイツ全体で見ると、AfDは極右団体に指定されていない。複雑なので、詳しく説明しよう。2025年6月に公表された憲法擁護庁報告書によると、同庁は2020年以来、AfDの5つの州支部(ザクセン・アンハルト州、ブランデンブルク州、ザクセン州、テューリンゲン州、ニーダーザクセン州)と2つの関連団体(「翼」と、「若い選択肢」)を、「確定的に極右の性格を持つ組織」に指定した。その内「翼」と「若い選択肢」は解散した。4つの州支部は指定取り消しを求めて提訴したが、その内2支部については確定。2支部については係争中だ。今年2月17日に極右団体に指定されたAfDニーダーザクセン州支部は、近く指定の取り消しを求めて提訴する方針だ。

【表1】憲法擁護庁から「確定的に極右の性格を持つ組織」に指定されたAfD州支部と関連組織 拡大画像表示

 連邦憲法擁護庁は、各州の憲法擁護庁のAfD州支部に対する捜査と並行して、全国レベルでのAfD全体についても2022年以来「確定的に極右の性格を持つ組織の疑いがある」として監視、捜査を続けてきた。その結果、憲法擁護庁は2025年5月2日にAfD全体も、「確定的に極右の性格を持つ組織」に指定した。

 ただしAfDは、2025年5月5日にケルン行政裁判所に対し、憲法擁護庁による「確定的に極右の性格を持つ組織」という指定の取り消しを求める訴訟を起こした。このため憲法擁護庁はこの裁判の判決が出るまでは、AfDを「確定的に極右の性格を持つ組織」と公に呼ぶことを禁止されている。したがって筆者は本稿ではAfDを極右政党とは呼ばず、右翼ポピュリスト政党と呼ぶ。

数百万人を国外へ追放する「再移住」関連会議に出席

 だがAfDが極右思想の持ち主たちと交流していることは事実だ。ザクセン・アンハルト州支部のジークムント候補は、2023年に11月25日に極右勢力の関係者が開催した会合に参加した。この会合は、旧東ドイツ・ポツダムのホテルで、極右勢力の関係者らが、AfD党員や排外的思想を持つ企業家たちを会合に招いたもの。主催者は、デュッセルドルフの元歯科医ゲルノ・メーリヒ氏。彼は1970年代に「国家に忠実な青年の同盟」という極右組織の指導者を務めたことがある。ネオナチ思想の持主だ。

 会議では、極右団体「アイデンティタリアン運動(IB)」の元指導者のオーストリア人マルティン・ゼルナー氏が講演を行った。

 ゼルナー氏は欧州で最も過激なネオナチの一人として、捜査当局からマークされている。彼はこの会議で、ドイツから難民や亡命申請者だけではなく、ドイツに帰化した外国人も含む数百万人を国外へ追放する「再移住(Remigration)計画」について説明した。

 再移住とは、欧州のネオナチが好んで使う用語だ。ドイツに帰化した外国人を国外追放することは、ドイツ憲法に違反する。しかし会議の参加者たちは、ゼルナー氏の説明に異論をはさんだり、抗議したりしなかった。この会議について2024年1月10日に調査報道メディア「コレクティーフ」がスクープとして報じると、ベルリンやミュンヘンなどでのべ100万人の市民が、AfDに抗議するデモを繰り広げた。

 ただし近年のドイツでは、メディアがAfDについて否定的な報道を行っても、同党への支持率が減らないという傾向がある。実際、コレクティーフの報道にもかかわらず、AfDは2025年2月の連邦議会選挙で得票率を前回の選挙の2倍の20.8%に増やし第2党、旧東ドイツでは第1党の座に就いた。AfDが過激化するほど、同党の支持率が高まるのだ。AfDを「普通の政党」と見なす若者や労働者が増えている。

ウクライナ避難民の送還も提唱

 ジークムント候補は、政権に就いた場合、ザクセン・アンハルト州の政治を大きく変えることを目指している。今年1月下旬以降ドイツの一部のメディアは、AfDが政権を取った際に実行する政策プログラムについて報じている。このプログラムによると、AfDは「ドイツ国民が絶滅するのを防ぐために、移民政策を大きく転換する」と主張している。

 具体的にはAfDは「過去の政権の、ドイツへの移住を歓迎するような姿勢をやめる。亡命申請者はドイツに一時的に滞在するだけだ。我々は彼らを都市から離れた地域の集中滞在施設に居住させ、樹木の伐採などの労働に従事させる」と提案している。さらに同党は、連邦政府、連邦議会、連邦参議院に対して、ドイツ憲法が保障する個人としての亡命申請権を廃止するよう働きかける。

 またAfDは、「我々が政権に就いた暁には、ザクセン・アンハルト州への難民の受け入れを停止する。特に、ドイツに来る前に政治的な迫害などの危険がない、安全な第三国を通過してきた亡命申請者の受け入れを拒否する」と述べている。

 ザクセン・アンハルト州には、2025年11月の時点で約3万5000人のウクライナ人たちが避難してきている。AfDは「ウクライナでは主に東部だけで激しい戦闘が行われており、大半の地域は安全なのだから、我が州に滞在しているウクライナ避難民を送還する『再移住キャンペーン』を始める」と述べている。

 実際には、ロシア軍はウクライナ東部以外の地域にも自爆型ドローンやミサイルによる攻撃を行っており、大半の地域が安全だと断定することはできない。AfDはこの政策プログラムの中で、ロシア・ウクライナ戦争がロシアの侵攻によって始まったことや、ウラジーミル・プーチン政権の戦争責任について全く言及していない。

 AfDザクセン・アンハルト州支部は、エネルギー政策についても、現在の連邦政府と全く異なる道を提案する。同支部は、「爆破された海底パイプラインを修復してロシアからの天然ガス輸入を再開するとともに、化石燃料の使用期間を継続するべきだ。既存の太陽光発電設備や、風力発電設備については、設置した事業者に費用を負担させて、撤廃する」と主張し、再エネ拡大政策をストップさせることを求めている。

 AfDは、ドイツ人の出生率を高めるための対策も打ち出す。具体的には、「ベビー歓迎金」として最大4000ユーロ(74万円・1ユーロ=185円換算)の出産一時金の支給や、託児所、学校給食や教科書の無償化、子どものスポーツクラブへの無料参加、生徒のための公共交通機関や博物館などの切符の無料化などを提言している。これは一種のバラマキ政策だが、AfDは財源については明確にしていない。

「メディア」「教会」「大学」に介入する方針

 さらにAfDは、「政権を掌握した場合、州政府と公共放送局などが結んでいるメディア・国家契約を解消して、州政府から独立し、政治的な性格が薄い『基本放送局』を創設する」と述べている。この背景には、AfDが「ドイツの公共放送局の報道番組などの内容は、州政府や連邦政府によって大きな影響を受けている」と批判してきたという事実がある。AfDはこれまでも、公共放送局や受信料制度の廃止、放送内容の削減などを訴えてきた。AfD支持者の間では、ドイツ第1テレビなどの公共放送局を批判する者が多い。

 またAfDザクセン・アンハルト州支部は、「現在我が州のカトリック教会とプロテスタント教会は、州政府から援助金を受け取っているが、我々が政権に就いた場合、この援助金を直ちに廃止する(筆者註:公共放送局MDRによると、2024年に同州のカトリック教会とプロテスタント教会は、州政府から4390万ユーロ:81億2150万円の援助金を受け取った)。さらに教会税の徴収も停止する。その理由は、これらの教会が信仰だけではなく、ドイツの価値を破壊する多文化主義や虹色のイデオロギーを広めているからだ」と述べている。

 虹色のイデオロギーとは、同性愛者や性転換者への差別を禁止し、権利を尊重するべきだとする思想だ。AfDが教会に対して厳しい態度を打ち出している理由は、ザクセン・アンハルト州の教会がAfDに対して批判的な姿勢を取っているからだ。

 ドイツでは住民登録の際に、「キリスト教徒である」と答えると、会社などの毎月の給料から自動的に教会税(ザクセン・アンハルト州では、所得税の9%)が差し引かれる。地方自治体は、教会のために教会税の徴収を代行しているわけだが、AfDはこの代行業務を取りやめる方針だ。教会にとって、この税金は託児所や幼稚園、介護施設などの運営や困窮者のための炊き出しなどにも使われる重要な資金である。教会にとって教会税の徴収代行の廃止は、財政的に大きな打撃となる。

 さらにAfDは政策プログラムの中で、大学での研究活動の改革にも言及する。AfDは「性差別問題や植民地主義についての批判的な研究を減らして、イスラム教について批判的な研究が行われることを促進するべきだ」と主張している。

 AfDがザクセン・アンハルト州で単独政権を樹立した場合に、これらの政策をどの程度実行するかはわからない。ただし同党が2029年の連邦議会選挙へ向けて独自色を打ち出すために、特に難民政策については厳しい路線を打ち出すことが予想される。

AfD幹部親族の縁故採用疑惑

 ただし今月に入ってからAfDザクセン・アンハルト州支部にとって不都合な報道が相次いでいる。2月4日、ドイツ第2テレビ(ZDF)は「ジークムント首相候補の父親が、AfDの連邦議会議員のベルリン事務所で職員として雇用されており、毎月7725ユーロ(143万円)の給料を得ている」と報じた。さらにZDFなどは2月10日にも、「AfDザクセン・アンハルト州支部のマルティン・ライヒャルト支部長の親類も、AfDの連邦議会議員のベルリン事務所で職員として雇われている」と報じた。AfD側は、これらの報道に対して2月13日の時点でコメントを拒否している。

 ZDFなどの報道が事実であれば、この縁故採用問題がAfDの州議会選挙での得票率に悪影響を及ぼす可能性がある。投票日まで、今後約7カ月間のザクセン・アンハルト州での動きは、中央政界・論壇でも注目されるに違いない。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
熊谷徹(くまがいとおる) 1959(昭和34)年東京都生まれ。ドイツ在住。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン特派員を経て1990年、フリーに。以来ドイツから欧州の政治、経済、安全保障問題を中心に取材を行う。『イスラエルがすごい マネーを呼ぶイノベーション大国』(新潮新書)、『ドイツ人はなぜ年290万円でも生活が「豊か」なのか』(青春出版社)など著書多数。近著に『欧州分裂クライシス ポピュリズム革命はどこへ向かうか 』(NHK出版新書)、『パンデミックが露わにした「国のかたち」 欧州コロナ150日間の攻防』 (NHK出版新書)、『ドイツ人はなぜ、毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか 』(SB新書)がある。
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