なぜ「米国だけが儲かる」のか?――主要産業における「アメリカン・プレミアム」の正体
2026年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)において、カナダのマーク・カーニー首相は「大国の要求に従うことなく、ミドルパワーが結束を」と訴えた。事実、東南アジアや南米各国によるCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への新規加盟申請や、EU(欧州連合)とインドのFTA(包括的・先進的自由貿易協定)合意など、「米国抜きの貿易圏」構築は着実に進展している。
トランプ政権による高圧的な要求や、経済合理性を超えた恣意的な関税政策など、予見可能性の極めて低いリスクに直面しながらも、なぜ産業界は「米国依存」を本気で解消してこなかったのか。それは、多くのビジネスにとって、米国が「抜き」では立ち行かないほど圧倒的に魅力的な、そして「儲かる」市場だったからに他ならない。世界のGDP(国内総生産)の4分の1を占める「規模」もさることながら、特筆すべきは「利益の質」の特異性である。
米国市場だけが「特別に儲かる」のは、単なる旺盛な消費意欲の結果ではない。通商政策のみならず、古くからの商慣習、消費特性、そして産業ごとに緻密に設計されたメカニズムによってデザインされた構造的な要因が存在するからだ。
本稿では、主要5産業にフォーカスし、米国市場の「稼ぐ力」の正体を解き明かしたい。
鉄鋼産業:中国の過剰生産品を遮断した「高値の要塞」
日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収は、2025年6月、トランプ政権による承認判断を経て正式に完了した。買収総額は141億ドル、当時の為替レートで約2兆円を超える規模に達し、日本企業による海外買収としても過去最大級の大型案件となった。この巨額買収を断行した背景には、米国市場が持つ圧倒的な価格プレミアムがある。
中国の過剰生産に伴う余剰鋼材がアジア市場に溢れ出し、上海やASEAN(東南アジア諸国連合)の熱延鋼板市況はトン当たり500ドル台で低迷している。対して、米国の市況は800ドルから1000ドル超の水準を維持しており、アジアとの価格差は恒常的に1.5倍〜2倍に達する。鉄鋼産業は「一物二価」どころか、市場によって価格が大きく異なる構造になって久しい。
米国の鉄鋼市場が中国発の価格破壊の波を回避できているのは、通商拡大法232条に基づく関税障壁という名の「城壁」のためである。具体的には、
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
