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池内恵の中東通信

池内恵(いけうちさとし 東京大学教授)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について日々少しずつ解説します。

執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。

イスタンブールからイスラエル・ガザの「戦争」を見る

トルコのイスタンブールに滞在している。 9月半ばに1週間ほどイスラエル・テルアビブに滞在し、客員研究員の資格も与えられている国家安全保障研究所(INSS)で今後の共同研究の打ち合わせ、INSSに日本から高名な先生を迎えて中国問題のディスカッションを設定するなどしたが…
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「脱エスカレーション(de-escalation)」が現在の中東政治のトレンド・キーワード

現在の中東政治・外交の共通の課題を表す概念を一つだけ挙げるならば、"de-escalation"だろう。これをどう訳すか。「緊張緩和」とでも訳すのが無難だろうが、あえて『フォーサイト』では国際政治に慣れた読者も多いと思われるので、「脱エスカレーション」としておきたい。「…
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非国家主体から国家主体へ

中東で生じている大きな変化を、これから折に触れ、抽象化して記していきたい。 見るべき重要なポイントは、中東地域の政治・国際関係の基調が「非国家主体から国家主体へ」と転じたという点だろう。 2001年の9・11事件以後、イラク戦争後の混乱を経て、「アラブの春」の動…
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世界の中でその地位を転じ続ける中東の姿を見続ける

またも「中東通信」欄の更新が滞ってしまった。しかも今度は長期に留守をした。待っていただいていた読者の方々には深くお詫びしたい。それでもなお待ってくださるという編集部の皆様には感謝の言葉もない。 勤め先の東大先端研に設立した、「大学発・外交安全保障シンクタン…
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2022年の回顧:グローバルサウスと「価値を共有」した中東主要国

 2022年も大晦日となった。フォーサイト編集部からは、各種の寄稿の打診や企画のお誘いをいただくが、学内シンクタンクROLESの組織運営や海外拠点形成にかかりきりで、反応できないことが多くて心苦しいところである。   昨年はこの「中東通信」欄に、12月に一気に10本の…
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ネタニヤフは分裂するイスラエル政界で「余人をもって代え難し」

 イスラエル国会(クネセト)が、12月29日、ネタニヤフ元首相が率いる議会第一党リクード党(議席総数120のうち32議席)が極右政党や宗教政党と組んだ連立政権を承認し、ネタニヤフが政権に返り咲いた。イスラエル政治史上、最も右寄りの政権が誕生した。11月1日に行われた3…
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トルコ・エルドアン大統領の差し伸べる手を握り返すアラブ諸国

 先日この欄に記したトルコのイスラエルとの「和解」は、イスラエルが陰に日向に音頭をとって形成してきた「トルコ包囲網」を構成する主要国に、エルドアン大統領がいわば「詫びを入れる」行脚の延長線上にある。トルコの台頭と孤立   トルコのイスラエルとの関係は、トル…
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ムハンマド皇太子の変わらぬ資質と代わる環境

 8月31日である。終わっていない「夏休みの宿題」の一つが、7月末に英Economistの付録雑誌1843 Magazineに、この「夏の読み物 (summer reading)」の一つとして掲載されていた、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子に関する長文の記事である。Economistの…
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イスラエルのガンツ国防相が米国訪問の帰路に来日

 イスラエルのベニー・ガンツ国防相が8月25日から27日に米国を訪問し、フロリダ州タンパの米中央軍司令部でマイケル・クリラ司令官と会談し、ワシントンDCでジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官等と会談する模様だ。   イスラエルの国防相は頻繁に訪米するた…
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東地中海ガス田をめぐる虚実皮膜・再論

 先ほどこの「中東通信」欄に「トルコとイスラエルは不承不承に関係を修復」を寄稿して、ここ半年余りのトルコ・イスラエル外交関係の進展について記事をまとめておいた。   このまとめを行ったのは、トルコ・イスラエル関係、特に2020年ごろから焦点となっている「東地中…
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トルコとイスラエルは不承不承に関係を修復

 8月17日にトルコのエルドアン大統領とイスラエルのラピド首相が電話会談を行い、4年前の2018年に相互に退去させて以来不在となっていた大使・総領事を双方が任命することにより、両国が十全な外交関係を回復することを確認した。8月19日にはトルコ・エルドアン大統領とイス…
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エルサレム・テルアビブの間で「毎日が巡礼」の生活

 3月以来、イスラエルと東京の往復生活を続けている。現在は3回目の渡航に向かうところである。   3月の渡航で、2020年以来、新型コロナ禍による渡航制限で伸び伸びになっていた、テルアビブ大モシェダヤン中東アフリカ研究センター(Moshe Dayan Center for Middle Easte…
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イスラエルとトルコを軸とした中東政治のグローバルな存在感

この欄を「留守」にしていた間に注力していた研究事業についてなど、いくつか雑観を記すことを許していただきたい。 最近は「書き手」「演者」として最前線に立って発言するよりも、大学という場を、時代の変化にふさわしい形で再構成していくための「裏方」の作業が多くなっ…
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テルアビブと東京の二拠点研究生活の開始

昨年末に続けざまにこの欄を更新して、日々の観察記録だけでなく数年・数十年単位での変化の諸相をまとめてから、3カ月が経ってしまった。この前後は、細かく記すことは相応しくないが、職業上「とにかく忙しかった」としか言いようがない。この欄の更新を粘り強く待ってくだ…
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2021年の中東を回顧する(10)トルコ・エルドアン大統領の権勢に翳り

2021年の中東を回顧するこのシリーズも、10回目でひとまず区切りとしたい。年末までにまた大きな動きがないことを祈るばかりである。 締めくくりに、2021年にはトルコのエルドアン大統領の権勢に、ついに翳りが見られてきた点を、挙げておきたい。「2023年」の共和国建国100…
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2021年の中東を回顧する(9)イスラエル・ネタニヤフ首相の退陣

イスラエルでは2021年6月13日、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が退陣した。1996年に初めて首相になって以来、四半世紀にわたってイスラエル政界の「顔」だったネタニヤフがついに政権を手放したことは、今年の中東の重要な出来事として、記しておかなければならないだろう。 ネ…
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2021年の中東を回顧する(8)イランの保守強硬派ライースィー大統領は次世代の最高指導者たりうるか

2021年の中東を記録する時に、イランで保守強硬派のエブラーヒーム・ライースィーが大統領に当選・就任した点を書き漏らすわけにはいかないだろう。ライースィー大統領就任が、イラン政治と政治史においてどのように描かれることになるか、いわばどのように「記憶」されるかは…
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2021年の中東を回顧する(7)脱炭素化への湾岸産油国の面従腹背:ネット・ゼロ工程表は『ラ・ラ・ランド』の続編?

2021年の中東の環境・エネルギー問題を、後の時代に振り返るなら、サウジアラビアのアブドルアジーズ・ビン・サルマーン石油相(サルマーン国王の子)が6月1日に行った「ネット・ゼロ計画はラ・ラ・ランドだ」という発言が、この年の奇妙な状況を俯瞰する象徴的なものとして、…
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2021年の中東を回顧する(6)米国の中東関与の低下がもたらす米同盟国・友好国の不安と自立

2021年の中東を回顧するならば、すでに論じ尽くされたように感じられたとしても、やはり8月30日に米軍のアフガニスタンからの撤退が完了し、それによって象徴的に「対テロ戦争」の20年が終焉を迎えた点を挙げておかなければならない。アフガニスタンは中東か? そもそも「ア…
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2021年の中東を回顧する(5)「インド太平洋」と中東:アブラハム合意にインドが加わった「中東版クアッド」

「中東版クアッド」をご存知だろうか。 10月18日に、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相が、イスラエルを訪問してヤイル・ラピド外相(交代制の次期首相でもあり、連立政権の組閣主導者である)と会談した。これに合わせて米国のアントニー・ブリンケン国務長官と…
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