ポイント・アルファ
ポイント・アルファ (22)

ブレイクスルーを待つ「ペロブスカイト太陽電池」――ライバル技術と残された課題は?|村上拓郎・産総研ペロブスカイト太陽電池研究チーム長(2)

執筆者:関瑶子 2025年6月10日
タグ: 日本
曲げに強く軽量という強みを持つペロブスカイト太陽電池は、色素増感太陽電池と呼ばれる別の太陽電池の開発が原点だ。競合技術はシリコン太陽電池の進化形や風力発電などで、最大の課題として「水への耐久性」が挙げられる。(聞き手:関瑶子)

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 長野光と関瑶子のビデオクリエイター・ユニットが、現代のキーワードを掘り下げるYouTubeチャンネル「Point Alpha」。今回は、ペロブスカイト太陽電池の開発経緯や競合技術、デメリットについて、産業技術総合研究所ペロブスカイト太陽電池研究チーム長の村上拓郎氏に話を聞いた。 ※主な発言を抜粋・編集してあります。

桐蔭横浜大学の挑戦

——ペロブスカイト太陽電池の開発経緯を教えてください。

「ペロブスカイト太陽電池は、色素増感太陽電池と呼ばれる太陽電池の開発が原点です。結晶シリコン太陽電池では、シリコン層を発電層としていますが、色素増感太陽電池は色素が光を電子に変えて発電します。1990年代から2010年代頃まで、実用化を目指した開発が盛んに行われてきました」

「そもそも、色素増感太陽電池開発のモチベーションは、結晶シリコン太陽電池よりも安価な太陽電池を開発することにありました。色素増感太陽電池の内部には電解液という液体が入っています。電解液の外部への漏出が実用化を妨げる大きな障壁となっていました」

「太陽電池の電解液の役目は、光の照射によって発電層から飛び出した電子や電子が飛び出した後に残されるプラス電荷(ホール)を輸送することです。ホールは、放っておくとすぐに電子と結合してしまいます。したがって、太陽電池ではホールはホールとして、電子は電子として取り出す必要があります」

「そこで、色素増感太陽電池の電解液を固体化させる研究が一部の研究者たちの手により進められました。一方で、2009年、桐蔭横浜大学の宮坂力教授らが、色素の代わりにペロブスカイトという結晶を使って光を電子に変える太陽電池を開発しました」

「当初のペロブスカイト太陽電池の構造は、色素増感太陽電池の構造と同じで電解液を用いていました。ペロブスカイト結晶は、電解液に弱いという弱点があり、発電可能時間は数時間程度。さらに、変換効率も3%程度で、とても実用化に耐えられるようなものではありませんでした」

カテゴリ: 環境・エネルギー
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執筆者プロフィール
関瑶子(せきようこ) ライター・ビデオクリエイター 早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。You Tubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。
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