ロシア占領下のウクライナで、連れ去られたり保護者から引き離されたりしている未成年の実態が、少しずつ明らかになりつつある。ウクライナから遠く離れたキャンプに送られ、軍事訓練や愛国教育を受けるケースが相次ぎ、北朝鮮まで連れて行かれた例もあった。ウクライナの人権団体などが実態解明と子どもの奪還に取り組んでいるが、占領地の子どもたちの取り込みと再教育を組織的に進めるロシア側の壁は厚い。
戦争での子どもの被害をまとめたウクライナ大統領府と国家統一省(その後の社会政策・家族・統一省)などのサイト「戦争の子どもたち」によると、ロシアによって連れ去られたり移動を強いられたりした子どもの数は、2026年4月21日現在で2万570人に達する。ただ、実際にはこれよりずっと多いと考えられている。帰還できたのは2108人である1。
国連の「ウクライナに関する独立国際調査委員会」が2026年3月、国連人権理事会に提出した報告によると、同委員会が確認した占領地における子どもの連れ去りの人数は1205人だが、実際の総数はずっと多い。ロシアは「紛争に巻き込まれるのを避けるため」と説明するものの、国際人道法が認める一時的な避難にとどまらず長期化しているという2。
占領地の子どもたちが受ける扱いは、このような強制移送にとどまらない。ロシア各地やその周辺のキャンプに一定期間送られ、訓練や教育を受ける例が、保護者と暮らす子どもの間でも広範囲に見られる。米イェール大学公衆衛生大学院人道研究室の調査によると、この種のロシアの施設は、ロシア全土やウクライナ占領地で少なくとも210カ所に及ぶ。このうち130カ所に、主に14歳から17歳のウクライナ人が1~3週間の日程で滞在し、ロシア人の子どもたちに混じって愛国的な主張や理念を教えられたり、軍事訓練を受けたりしていた3。
筆者は2025年10月14日付『「殺人マシン」に訓練されるウクライナ占領地の子どもたち:施設は千島列島「占守島」にも』で、千島列島の占守(シュムシュ)島で軍事訓練を受けたウクライナの子どもの例を報告した。これは、ウクライナの大手慈善基金「セーブ・ウクライナ」の調査に基づく情報だが、この団体と協力関係にあるキーウの法律家団体「地域人権センター(RCHR)」は、子どもたちが北朝鮮のキャンプにも送り出されているとの情報を明らかにしている。「セーブ・ウクライナ」が主に、子どもたちの奪還やケアに取り組んでいるのに対し、「地域人権センター」はその取り組みへの法制面でのアドバイスや、責任者に対する国際法廷での追及、国際的な支援の呼びかけなどを担っている。
米公聴会で明らかに
ウクライナの子どもたちの北朝鮮移送が明らかになったのは、米上院歳出委員会国務・海外事業および関連プログラム小委員会が2025年12月3日に開いた公聴会4の席だった。ここに出席した「地域人権センター」所属の国際弁護士カテリーナ・ラシェウスカが、調査結果を証言したのである5。なお、「地域人権センター」は2013年にクリミア半島のセヴァストポリで設立されたが、翌年のロシアによるクリミア半島占領に伴いキーウに移動した組織で、占領地での人権擁護や財産権の保護、ロシアによる戦争犯罪の記録などに取り組んでいる。同センターで国際司法・法務分析の責任者を務めるラシェウスカは1997年ポルタヴァ州に生まれ、キーウ大学で国際法の博士号を取得して、2020年から同センターの活動にかかわっている。彼女の活動は、ロシア軍のミサイル攻撃で殺害された作家ヴィクトリヤ・アメリーナ(1986-2023)の遺作『女性を見よ、戦争を見よ』(未邦訳)の中でも描かれている6。
ラシェウスカの公聴会証言によると、同センターはロシアやベラルーシ、ウクライナ占領地などの165カ所のキャンプを調査した。
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