ホルムズ危機で日本が検討すべき「米国に依存しない有志連合」による対応

執筆者:小木洋人 2026年4月14日
エリア: アジア 中東
防空に比較的強い汎用護衛艦をバブ・エル・マンデブ海峡からアデン湾周辺の洋上防空に当たらせるなど、複数のオプションが検討し得る[海上自衛隊のあきづき型護衛艦「あきづき」](C)時事
米国がホルムズ海峡を力で開放できる可能性は低い。ドローンを有効に使うイランの非対称戦が効果を上げている限り、停戦が成立しない限り同海峡での軍事オプションは想定できないと見るべきだ。ただし、国内の議論が集まる法的な壁は、3月に採択された国連安保理決議第2817号によって解決の道筋が示されている。日本はこの決議を支持する同志国と、紅海経由の迂回ルート安定化に取り組むことができるだろう。それは、いずれ日本が東アジアで直面しうる「米国の支援なき軍事作戦」というワーストケースに備えることにもなるだろう。

 2026年2月28日に突如として始まったイラン戦争は、イラン最高指導者アリ・ハメネイ氏や軍幹部の殺害、主要軍事アセットの破壊を含む当初の圧倒的な米国・イスラエル優勢から、イランの非対称戦略による水平的エスカレーションへとフェーズを変えた。その水平的エスカレーションの手段が、ホルムズ海峡や湾岸諸国へのミサイル・ドローンによる攻撃(及びその脅威)である。

 イランの非対称戦略の要諦は、ホルムズ海峡を人質にとることによりエネルギーの安定供給と世界経済を脅かし、軍事的には優位に立つ米国とイスラエルの継戦意思に間接的な揺さぶりをかけるものだ。これにより日本を含む非紛争当事国は大きな経済的影響を受けているが、イランの視点に立つと、これは自国を防衛するために戦争を継続する上でのいわば付随的損害(コラテラル・ダメージ)であり、米国・イスラエルが戦争を継続する限りこの状態は続く。米国とイランは、4月11-12日にパキスタンの仲介を受けて協議を行ったが、依然として両者の隔たりが大きく、停戦の妥結には至っていない。それどころか、米国はホルムズ海峡を東側から海上封鎖する動きを見せており、ホルムズ海峡を民間船舶が自由に通航できる状況にはほど遠い。

 このような状況において、米国は日本を含むホルムズ海峡の海運への依存度が高い国に海上護衛などの軍事的役割を求めてきたが、日本政府は法的な難しさを理由として現時点における自衛隊の派遣は行わないこととしている。とは言え、このままホルムズ海峡が事実上封鎖され続けるのを座視していたのでは、いかに日本が220日程度の石油備蓄を有していたとしても、備蓄が刻々と減少していく。その上、東南アジアや台湾といった日本より備蓄が少ないとされる国々のサプライチェーン混乱の影響を直接ないしは間接的に受ける可能性が高い。

 そうだとすれば、単なる日米同盟の管理の問題を超えて、すなわち米国からの要望とは別の問題としてエネルギーの安定供給のためのオプションを検討し始める必要がある。もちろんその中には、非紛争当事国としての停戦仲介といった外交努力や、中東以外からの原油供給も当然に含まれる。しかしそうした手段を尽くしてもなお、原油獲得が不十分な状況が長期化する場合どう対応すべきか。本稿ではそのような全体像の中での軍事的オプションに絞った検討あらかじめ行うものである(したがって、まず軍事オプションありきという立場でないことをあらかじめ留保しておきたい)。

海峡「開放」を阻むイランのドローン

 まず前提として、ホルムズ海峡封鎖はいつまで続くのだろうか。これについては、とにかくトランプ大統領の継戦意思を確認したいところだが、当初の斬首作戦による早期戦争終結の計画が崩れた以上、米国は具体的な出口戦略を描けていない可能性が高い。2026年11月の米国中間選挙への影響を恐れてそれまでには停戦したいという見立てはできるが、それにしても現在の4月時点から200日以上の期間があり、各国の石油備蓄の状況を踏まえると静観したまま楽観的な見通しを立てることは難しい。イランは米国が手を引くまで、あるいは米国が引いたとしてもイスラエルが手を引くまでホルムズ海峡や湾岸諸国への圧力を継続すると思われるからだ。もっとも、米国が厭戦ムードから一刻も早く足抜けしたいという思いは停戦協議から透けて見えるが、イスラエルを実効的に抑制しつつ、さらに核問題などにおいて自らが納得する形でイランと合意に至るプロセスはいまだ見えない。

 次に、米国・イスラエル側がイランを軍事的に圧倒することにより、ホルムズ海峡が開くことは考えられるだろうか。これも、イランの継戦能力を踏まえると想定しがたい。これまでの攻撃により、イランのミサイルの3分の1は破壊され、3分の1は損傷を受けたり、地下に埋まっているとされる一方、残り3分の1以上は残存している可能性があるとされる。だとすると、イランはいまだ1000発近くの弾道ミサイルを残しているかもしれない。ドローンについてはさらに不明確で、どの程度在庫があるかすら分かっていない。実際、開戦初期に多かったミサイル攻撃は相当程度減少する一方、ドローンによる攻撃は一向に減っていない。これには、イスファハンなど山岳地帯の地下に設けられたミサイル・ドローン生産工場の抗堪性が大きく影響している可能性も指摘されている。これらの地下施設を空爆によって網羅的に無力化することは難しい。かと言って、地上作戦をイラン内陸部まで展開することはさらに難しい。

 振り返れば、2024年1月から米英両国がイエメンのフーシ派への空爆を行った際も、その後の紅海・アデン湾へのミサイル攻撃は低下する一方、ドローンによる攻撃を抑制するには至らなかった。ドローンの在庫や発射地点を網羅的に打撃することは難しいためだ。対イランの場合も同様の過程を辿っていく可能性が高い。

 さらに注意が必要なのは、ロシアがイランにドローンのいわゆる「ライセンス・バック」を行う動きが報じられている点だ。ロシアがウクライナ戦争で使用しているゲラン2、ゲラン3といった自爆型ドローンは、元々はイラン製のシャヘドをロシア国内でライセンス生産したものである。しかし、筆者が以前分析したとおり、ロシアは国内生産に当たり、戦場からのフィードバックを受けて汎用GPUモジュールなどを付加することにより、標的情報の処理能力を向上させてきた。今後ロシアがイランに改良型ドローンの提供を行えば、イランのドローン攻撃の有効性が増す可能すらある。

 このようなことを踏まえた場合、米国・イスラエルが軍事的優位性を背景にイランの継戦能力を無力化し、ホルムズ海峡を力ずくで開くことができる可能性は低い。

ホルムズ海上護衛は法的に可能、ただし「特措法」では正当化されず

 それでは、各国がホルムズ海峡において原油タンカーを護衛することで状況を打開できるだろうか。これについても、停戦が成立していない現状では否定的に解さざるを得ない。

 とはいえ、報道されているのとは異なり、実は法的にはそれほど難しくない。確かに、米国やイスラエルに対する武力攻撃の発生を認定できない中で行われた米国の武力行使を支援するための軍事作戦は

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
小木洋人(おぎひろひと) アジア・パシフィック・イニシアティブ/地経学研究所国際安全保障秩序グループ 主任研究員。防衛省で総合職事務系職員として16年間勤務し、2022年9月から現職。2007年防衛省入省。2009年から防衛政策局国際政策課で米国以外の国では初となる日豪物品役務相互提供協定(ACSA)の国内担保法を立案。2014年から2016年まで外務省国際法局国際法課課長補佐として、平和安全法制の立案や武力行使に関する国際法の解釈を実施。2016年から2019年まで防衛装備庁装備政策課戦略・制度班長として、防衛装備品の海外移転の促進、ウクライナへの装備支援でも活用された外国軍隊への自衛隊の中古装備品の供与を可能とする自衛隊法規定の立案、防衛産業政策などを主導。2019年から2021年まで整備計画局防衛計画課業務計画第1班長として、陸上自衛隊の防衛戦略・防衛力整備、防衛装備品の調達を統括。2021年から2022年まで防衛政策局調査課戦略情報分析室先任部員(室次席)として、ロシアのウクライナ侵略、中国の軍事動向を含む国際軍事情勢分析を統括。2007年東京大学教養学部卒、2012年米国コロンビア大学国際関係公共政策大学院(SIPA)修士課程修了。
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