フランス統一地方選検証(上) 大統領選に向け「右翼」は成果、「中道勢力」は限界を露呈

執筆者:国末憲人 2026年4月12日
タグ: フランス
エリア: ヨーロッパ
第1回投票の結果を受けた右翼「国民連合」の党集会で挨拶を交わす党首バルデラ(左)と最高実力者のマリーヌ・ルペン(右)。ある世論調査では、この選挙で国民連合の立場が「強化された」と考える市民は52%に達する[2026年3月18日、フランス・シャロン=アン=シャンパーニュ](C)AFP=時事
多くの報道では「左派は復活、右翼は失速」と総括されたが、実情はもう少し複雑だ。国民連合市長誕生が取り沙汰されたマルセイユ、トゥーロン、ニームでは確かに「右翼は失速」だったものの、中小の街では国民連合が勝利を重ね、地方議員の数は大幅に増えた。これは大統領選で右翼が苦しんできた推薦署名集めの問題を解決することになる。注目を集めたパリ市長に左派候補が就いたのは、右派との連携を無駄にした中道候補のお粗末さに加え、左翼「不屈のフランス」が選挙前に起こした不祥事によって同党支持票が左派に流れたことも見逃せない。

 1年後に控えるフランス大統領選の前哨戦となる統一地方選が3月15日と22日の両日、投開票された。6年に一度の一見地味な催しだが、国政と自治体の政治家が密接に結びつき、国民議会(下院)議員と市長を兼務する政治家も多いフランスで、影響は大きい。その結果は、最大の焦点であるパリ市選挙で社会党候補が勝利を収め、また第2の都市マルセイユで当初優勢が取り沙汰された右翼「国民連合」候補が敗北したこともあり、左派が勢いを取り戻す一方で右翼が勢いを削がれたと受け止められがちである。実際には、事情はもっと複雑であり、今後への大きな懸念も持ち上がった。いくつかの街の実態を検証することで、選挙が意味するところを探ってみたい。

 フランスの市町村レベル自治体選挙は、男女同数の市議の候補者リストによる比例代表2回投票制で争われる。第1回投票で過半数を得票したリストがない場合、10%以上得票のリストが決選に進出できるため、三つ巴、四つ巴決選となる場合も珍しくない。決選にあたっては、第1回投票で一定数の得票を得た2つ以上の候補者リストの合併が認められており、第1回投票後での合従連衡、特に右派が右翼と、左派が左翼と連携しようとする動きが、しばしば物議を醸す。市長は市議の互選で決まるが、通常は候補者リストの筆頭が市長候補となる。

右翼が選挙で得たものは

 大統領選との関連で今回焦点の1つだったのは、右翼「国民連合」躍進の度合いだった。

 大統領選で最高実力者マリーヌ・ルペン(57)が2期連続で決選投票に進出し、2024年総選挙では国民議会で第一党の座を占めるなど、国民連合はこれまで、国政レベルで他の政党を凌ぐ支持を集めてきた。各世論調査でも、ルペンや党首ジョルダン・バルデラ(30)が30%を大幅に超える支持を集め、20%にも満たない他の政治家を引き離している。しかし、地方レベルでは苦戦が続き、大都市の市政を担った経験がほとんどなかった。今回の改選前も、ルペンの元パートナーで副党首のルイ・アリオ(56)を市長に抱く南フランスのペルピニャンが国民連合市政最大の街で、人口は12万人程度に過ぎない。

 国民連合の地方選不振は、ルペンの父で初代党首のジャン=マリー・ルペン(1928-2025)が大統領選以外に関心を抱かなかったことに端を発する。ルペン父は、党の資金を自らに集中させるために、また地方で党内対抗勢力が出てこないようにと、地方選に力を入れなかった1。それは、ルペン父の政治活動の目的が、一義的には人々の不満や不安に乗じて人気を得ることにあり、必ずしも政権の掌握ではなかったからでもあった2

 ただ、娘マリーヌ・ルペンは違う。政権に就く目的が明確であり、その準備を進めるうえでも主要都市の市政掌握は不可欠だった。

 今回は国内第2の都市マルセイユ、軍港都市トゥーロン、観光都市ニームといった南仏の街で、国民連合市長誕生の可能性が取り沙汰された。さらに国内第5の都市ニースでは、国民連合の全面支援を受ける「共和国右派連合」(UDR)党首のエリック・シオティ(60)が、マクロン政権1期目の首相エドゥアール・フィリップ(55)の中道政党「オリゾン」(展望)に属する現職クリスチャン・エストロジ(70)に挑んでいた。これらの都市はいずれも、保養地が点在する地中海岸に位置しており、場合によってはここが「右翼ベルト」となりかねない様相だった。

 蓋を開けると、シオティが決選で勝利を収めたものの、他の3都市ではいずれも国民連合候補が敗北した。多くの市民の懸念は杞憂に終わった。シオティは、右派政党「レピュブリカン」(共和主義者)の党首だった2024年、総選挙で国民連合との連携を勝手に打ち出し、党を追われた人物である。以来「裏切り者」の汚名を引きずっていたが、この勝利で一種の禊ぎを済ませる形となった。

 最終的に、国民連合市政の街は、アリオが再選されたペルピニャンが最大都市のまま、というぱっとしない結果である。しかし、バルデラは「史上最も素晴らしい快挙を成し遂げた」と胸を張った。何事も自分流に解釈する右翼ならではの「圧勝主義」だが、その言葉はあながちうそでもない。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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