高市早苗氏に関して私がいつも思い出すのはある敗北の風景である。それは2024年9月の自民党総裁選挙、決選投票を前にした演説だった。彼女が小泉進次郎氏に勝利した2025年の総裁選ではなく、石破茂氏に敗北した2024年のあの総裁選である。
岸田文雄総理総裁の任期満了に伴うこの選挙では、実に九人の候補者が立候補した。前年12月には主に旧安倍派を中心としたいわゆる「裏金」疑惑が表面化し、内閣支持率は低迷、各種選挙でも与党の苦戦が続く中、岸田氏は総裁として派閥解消の方針を打ち出した。これに応じて複数の有力派閥が解散し、派内の調整が機能しなかったことが、候補者の「乱立」につながったわけである。乱立は議員票の分散につながり、地方の党員党友票の重要性が相対的に高まった。議員票では一位だった小泉進次郎氏が決選投票に残れず、党員党友票を多く獲得した石破氏と高市氏が残ったのもそれゆえだった。ちなみに決選投票に先立つ一回目投票の得票数で勝っていたのは高市氏である。彼女はこの時、総裁の椅子に、ほぼ手をかけていたと言ってよい。
だが、総裁の座をつかんだのは高市氏ではなく、石破氏だった。議員票の比重が大きい決選投票での各議員の投票行動は必ずしも明らかではないが、投票前の演説の出来不出来は明らかだった。決戦投票候補者に割り当てられた5分間の演説――しかも2分間ほど超過したのだが――のパフォーマンスは惨憺たるものだった。彼女は湧き上がる高揚感をコントロールすることができずに、まるで酔っ払ったかのように見え、論旨は混乱し終始しどろもどろに見えた。この演説では勝てるものも勝てない。ネットで視聴しながら、筆者自身そのように思ったことをよく覚えている。一言でいえば、そこに表れていたのは高市氏の「未熟さ」であったように思われる。それに比べれば、石破茂氏の方が政党政治家としてはるかに熟練して見えた。
「未熟さ」を矯正しなかった高市氏、「封印」した小泉氏
そのほぼ一年後、彼女は念願の座を手に入れる。あのとき、彼女に代わって総裁の座についた石破茂氏は、総理就任直後に衆院の解散総選挙に打って出て敗北し、さらに翌2025年の参議院通常選挙でも大敗を喫する。党内では「石破おろし」が加速し、はやくも彼女にお鉢が回ってきたのである。
興味深いのは、一年を経て彼女の「未熟さ」が影を潜め、成熟した政治家に成長したという展開が訪れなかったことだろう。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。