2月28日に米国とイスラエルがイランに対する激しい軍事攻撃を開始し、イランの反撃で戦火が周辺諸国にも拡大する新たな中東戦争が始まってから1カ月が経過した。この攻撃で、イランでは前最高指導者アリー・ハメネイ師が殺害され、重要な軍事施設やインフラが破壊されるなど、その被害はまさに甚大なものとなった。他方、軍事力では米国・イスラエルに劣後するイランは、ミサイルやドローンを活用して「非対称戦」を仕掛け、徹底的に抗戦する構えである。湾岸産油国の米軍基地や軍事施設に加え、主要なエネルギーインフラもイランによる攻撃対象となった。
3月下旬から、米国とイランの間での「停戦」を巡る協議に関する報道が流れているが、双方が停戦条件として提示している(とされる)ものには、相手方が到底呑めないような内容が含まれており立場の差は大きい。一方で米国は中東への軍事力増派を進めており、4月1日のトランプ大統領の演説では、今後2~3週間は激しい攻撃を実施するとの姿勢も示され、戦争の先行きに予断は許されない。
危機の長期化で問題は「価格高騰」から「供給不足」に
双方による激しい攻撃の応酬が続く中、中東からのエネルギー輸送の大動脈であるホルムズ海峡が実質的に封鎖され、世界の供給量の約2割に相当する規模の石油や液化天然ガス(LNG)の供給支障が発生した。この状況が1カ月以上にわたり継続することで国際エネルギー市場は深刻な供給不安に襲われている。
原油価格は、激しく乱高下しているが基本的には高止まりを続けている。3月23~27日の週では、指標原油WTIは概ね90ドル台、ブレントは同じく100ドル台の推移であった。先述したトランプ大統領の演説を受けて原油価格は上昇し、WTIは110ドル台を突破した。ホルムズ海峡の実質的封鎖が続く限り、原油価格高止まりが続き、今後さらに上昇していく可能性も否定できない。中東産油国が、ナフサ、液化石油ガス(LPG)などの石油製品に関する主要輸出国であったことから、この供給支障で石油製品の供給不足と価格高騰も深刻な状況である。またLNGについては、世界有数の輸出国、カタールの主要インフラが攻撃にあって大きな損傷を被り、輸出能力が2割近く低下したことも世界に衝撃を与えた。LNGの需給で価格が決まるスポット市場ではLNG価格は原油価格以上に大きく高騰している。
原油・石油製品・LNGの価格高騰は、世界経済を減速させ、インフレを高進させる。これらのマクロ的な負のインパクトに加え、石油やエネルギーが日々の暮らしに密着し、幅広い分野で生活や経済に浸透しているため、世界各国で市民や経済界に大きな不安を呼び起こしている。今後、さらに原油などの価格が上昇すれば、その影響はいっそう深刻化しよう。しかし、より重大な問題になりうるのが、必要なエネルギーを十分に確保できるかどうか、ということである。
ホルムズ海峡経由の、世界の供給量の2割に相当するエネルギー輸出はあまりに巨大である。代替手段としては、ホルムズ海峡迂回の原油パイプラインでの輸出や、消費国における石油備蓄放出などがあるが、それらでホルムズ海峡通行量を全て代替することは困難である。従って、ホルムズ海峡の封鎖が続く限り、深刻な供給不足への懸念が高まっていくことになる。
経済合理性とリスクのトレードオフ
ホルムズ海峡問題は、国際エネルギー市場の歴史の中で、常に重要なリスク要因の一つとされてきた。しかし、これまでホルムズ海峡の実質的封鎖は起きなかった上、合理的に考えれば、イランがこの海峡を封鎖することは米軍の強力な介入を招き、体制転覆にもつながりかねないため、ありえないのではないか、という考えが「常識」となっていた。
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