石油をめぐる米国とベネズエラの地政学から浮かび上がる6つの論点

執筆者:小山堅 2026年2月2日
カテゴリ: 経済・ビジネス
エリア: 北米 中南米
2000年代以降の石油産業国営化で人材流出が続き、投資不足からインフラも老朽化している[マラカイボ湖の南にある石油掘削装置=2026年1月31日、ベネズエラ・ズリア州カビマス](C)AFP=時事
米国の攻撃による地政学リスクは足元の需給ファンダメンタルズに打ち消され、国際原油価格は反落した。「米国の管理下」に置かれるというベネズエラの石油は、長期的にはむしろ供給拡大も意識される。ただし、石油部門の人材流出とインフラ老朽化は深刻であり、外資が投資に踏み切るにはよほどの好条件が必要だ。主要な債権者であり輸出先でもある中国の出方も、米中の地政学的角逐の一環として注目される。

 2026年の国際エネルギー情勢は、新年早々に発生したベネズエラの首都・カラカスへの米軍の軍事攻撃とベネズエラの現職大統領の拘束、さらには米国への移送という衝撃的な事件によって幕が開くことになった。現地時間の1月3日、米軍の特殊部隊などが、カラカスを攻撃、ニコラス・マドゥーロ大統領を拘束し、麻薬犯罪などの罪で裁判にかけるため米国に移送した。ドナルド・トランプ大統領は、この作戦の「成果」を発表し、合わせてベネズエラの石油を米国の管理の下に置く考えを示した。米軍による重要な産油国、ベネズエラへの軍事攻撃と大統領の拘束という衝撃的な「地政学リスク」事象の発生と、米国によるベネズエラ石油の管理、という2つの新展開が国際エネルギー情勢を揺さぶることになったのである。本稿では、この影響を様々な角度から検討することとしたい。

市場には「供給増」の先読みも

 第1に、地政学リスクによる原油価格への影響という観点がある。通常、重要な産油国や供給源・ルートにおける地政学リスクの発生は、他の条件が一定ならば、原油価格を上昇させる作用を持つ。先物市場では市場参加者の先読みが大きな影響力を持っており、地政学リスクの発生は、石油供給支障を織り込んで原油価格を上昇させることになる。今回のベネズエラへの軍事攻撃もまさにその展開を辿り、当初原油価格は地政学リスクに反応して上昇を示した。しかし、市場はさらに先を読み、実際には今回の事象では石油供給支障は発生しない可能性が高く、むしろ、後述する理由でベネズエラからの石油供給は増えるかもしれない、という予想が広がることで原油価格は反落することになった。

 ここで注目すべきなのは、地政学リスクによる原油価格への影響は、本質的には実際に石油供給支障を発生させるかどうかにかかっている、という点である。地政学リスク事象そのものが、どれほど予想外で深刻なものにせよ、究極的には、石油供給支障を伴わないものであれば原油価格への影響は軽微なものになる。今回のベネズエラ情勢は少なくとも現時点までは、上記がそのまま当てはまる展開となっている。

需給ファンダメンタルズは地政学リスクの影響も左右

 第2に、地政学リスクによる原油価格の影響を考える上での需給ファンダメンタルズの重要性というポイントがある。第1の論点とも関係するが、地政学リスクが実際には供給支障を発生させない、という市場の読みが優勢になれば、市場の読みが重視するのは市場における足元の需給ファンダメンタルズということにならざるを得ない。

 今回のベネズエラ問題が発生した時、国際石油市場には基本的に潤沢な供給が存在し、原油価格は弱含みとなりやすい環境下にあった。実際にはその後のイラン情勢の緊張やその他産油国での供給支障などの影響もあり、原油価格は一進一退の状況となったが、地政学リスクによる影響はその時の需給ファンダメンタルズの状況に大きく左右されるという「原則」を今回も確認することになったのである。

「リスク要因としての米国」が浮き彫りに

 第3に、地政学リスクそのものの性質に関して、今回の事象は、国際エネルギー情勢を揺さぶる地政学リスクの中心に米国の存在があることを改めて強く認識させることになった点が重要である。

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執筆者プロフィール
小山堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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