やっぱり残るは食欲
やっぱり残るは食欲

料理研究家くらべ

執筆者:阿川佐和子 2026年5月5日
タグ: 日本
エリア: アジア
居酒屋メニューの「チーズいぶりがっこ」は美味しい(写真はイメージです)

 このところ、料理の仕事をしている方にお会いする機会が重なった。

 料理の仕事をする人と一口に言っても、その活動内容はさまざまだ。料理教室を主宰して生徒に教えている人もいれば、料理の本をたくさん出しているけれど、教室は持たない人もいる。肩書きも、「料理研究家」とか「料理愛好家」とか「フードコーディネーター」とか、その人なりのこだわりがあるようだ。有名レストランの「シェフ」の料理本もたくさんある。

 まずお会いしたのは平野紗季子さんという「フードエッセイスト」である。食べ物についてのエッセイを書くことを主たる仕事とし、ラジオなどでも番組をお持ちである。とはいえ、料理について比較したり評論したりするフードライターとか料理評論家とかとも「ちょっと違う」らしく、どこが違うかといえば、「噓をつかないこと」をモットーとしている点だという。

 と書くと、フードライターさんは噓をついているのかという疑念が湧きますが、そういうことではなく、そういうことでもちょっとあり、仕事をしているうちにどうしてもそのときの状況や大人の事情で、さほどおいしくなくても「おいしい!」と言わなければならなかったり、敢えて辛口の感想を書かなければならなかったりする場面に遭遇するだろう。でも、平野さんは仕事を始めるにあたり、「食を愛したまま噓をつかずにこの仕事をやってみせる!」と覚悟を決めたのだとおっしゃる。

 それほどに小さい頃から食べることが好きだった。小学四年生から「食日記」をつけ始めた。家族でファミリーレストランへ行くのを何よりの楽しみとし、感動した味を記録に残しておきたかったそうだ。幼少より食べ物について書く技を磨いてきただけあって、平野さんの表現力には独特の魅力がある。たとえば、ふわふわの明石焼きを「足腰の弱いたこ焼き」と言ったり、一人で外食ができる力を「外食筋がつく」という言葉で表したりして面白い。そんな話を伺ううち、私は質問した。

「そこまで食べることが好きならば、自分で作ってみたいとは思わないんですか?」

 すると平野さん、あっさりと、

「いえ。作るのは苦手。プロに任せたほうがぜったいおいしいから」

 へえ、そういう人がいるのかと、妙なところで感心してしまった。

 私はどこかでおいしいものに出くわしたら、「是非、再現したい!」という衝動にかられる。料理に自信があるわけではない。ただ、自分でも作れそうだと思ったら、挑戦したくなるのだ。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』、『レシピの役には立ちません』(ともに新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
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