低迷する左派政党が合併し新党結成
イスラエルでは今年10月までに総選挙が実施される。2022年末にベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる強硬右派リクードが、宗教政党だけでなく宗教極右政党と連立し、史上最も右寄りと言われる第6次ネタニヤフ政権が発足してから4年が迫る。
次の選挙の争点はまだ定まっていないが、過去の選挙と同様、「ネタニヤフ首相への審判」となるだろう。彼が2019年に詐欺、収賄、そして背任の疑いで、現職首相としては初めて起訴されて以来、イスラエルの選挙は「ネタニヤフか否か」が争点となってきた。
右傾化が言われて久しいイスラエルで、これまで以上に鍵を握る可能性があるのが左派の動向だ。2022年の選挙では、かつての政権政党である中道左派の「労働党」が最低議席数の4議席に低迷し、パレスチナとの融和を訴えてきた左派メレツが議席獲得ラインの3.25%を突破できずに議席を失った。イスラエルの右傾化、左派の低迷を象徴する出来事だった。
しかし、2023年10月のハマスによる奇襲攻撃という歴史的失態を経て、複数の左派政党が結集し、主要政党への復帰を目指している。2024年に新たに発足した「民主党」は、労働党とメレツが合併した中道左派政党だ。イスラエルの民放Channel12の世論調査では、民主党は10議席以上を獲得することが予想されている。
労働党とメレツの合併案は2022年の選挙時にも取り沙汰されたが、当時の労働党の代表メイラフ・ミハエリ氏は統合案を受け入れなかった。その後、議席獲得ラインを越えられなかったメレツの票は「死票」となり、ミハエリ氏は左派勢力のさらなる縮小と右派勢力の伸長を許したと批判された。
新政党「民主党」への期待の背景には代表であるヤイール・ゴラン氏の存在がある。63歳のゴラン氏は元々メレツに所属する政治家だったが、2024年3月に労働党に移籍。合併に先立って行われた同年5月の労働党の代表選挙に立候補し、ゴラン氏は3人の対立候補を抑え、有効投票数の約95%を集めて圧勝した。代表選出後、ゴラン氏は「労働党、メレツ、抗議運動の組織、そして他党に失望した人々など、あらゆる人々を結集させなければならない」と強調した。
そして、6月にメレツとの合併が決まった際には、「単なる『テクニカルな選挙連合』ではなく、最終的に一つの大きく結束した政党を生み出した歴史的プロセスであり、イスラエル国民の広範な層にとっての政治的な拠り所となる、リベラル民主主義的なシオニスト政党である」と述べて、右派に対する対抗軸を目指すと訴えた。
イスラエルは首相公選制ではないため、あくまで参考だが、「誰が首相に相応しいか」という世論調査でも、ネタニヤフ首相や、ナフタリ・ベネット元首相とともに、ゴラン氏は常に上位に入っている。
ハマスの襲撃現場に駆け付けたヒーロー
ゴラン氏は空挺部隊出身の元少将で、対ヒズボラ戦線などを担当する北部方面司令官や作戦局長を経て、2014 年から足掛け4年、軍のナンバー2となる副参謀総長を務めた。徴兵制が敷かれるイスラエルは、日常生活でも軍での経歴や所属部隊などが物を言う「軍社会」だ。政治的な立場を問わず、副参謀総長まで務めた経験は国民から幅広い尊敬を集める。
歴代首相にも軍エリート出身が多い。ネタニヤフ首相とベネット元首相は特殊エリート部隊「サエレト・マトカル」の出身で、オスロ合意をまとめたイツハク・ラビン元首相、2000年代にパレスチナとの和平交渉を進めたエフード・バラク元首相はいずれも参謀総長を務めた。2005年のガザ撤退を決断したアリエル・シャロン元首相は「狂犬」とあだ名されるほどのタカ派の軍人として知られていた。近年では中道政党「青と白」のベニー・ガンツ氏、中道の新星として注目されるガディ・アイゼンコット氏も元参謀総長で、副参謀総長だったゴラン氏は両氏を右腕として支えた。
政治家としてのゴラン氏は、バラク氏が率いる左派連合に参加して2019年に初当選、その後メレツに移籍した。パレスチナ問題の現実を現場で目の当たりにした軍幹部経験者が、パレスチナとの和平を訴えるようになるのはイスラエルでは珍しいことではない。2020年にはイスラエルメディアのインタビューでハマスについて、「彼らがテロリストだから無視しているというのは、愚かな嘘だ。確かに彼らはテロリストだが、戦うよりも対話するほうがよい」とすら発言していた。
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