ユダヤ年を暦とするイスラエルでは、ヨーロッパのようにシルベスター(大晦日)を祝うこともなければ、1月1日の花火のようなものもなく、ごく普通の月として1月を迎える。世界標準となっているグレゴリオ暦の2026年はユダヤ暦5786年と5787年にあたり、イスラエル建国から78年目の年を迎える。
イスラエルは特に2022年末に史上最右派政権が誕生して以来、社会の分断が極まっている。国家と国民の間の暗黙の社会契約であったはずの「人質解放」すら政治問題化し、ハマスから解放された元人質がその状況に愕然としたという話が出てくる。その分断の中で迎える2026年は、ハマスとの停戦、ガザ地区の復興、イスラエルの総選挙、そしてベンヤミン・ネタニヤフ首相の汚職等をめぐる裁判と多くの課題を抱え、大きな分水嶺となるだろう。
汚職裁判の公判中に総選挙の見込み
イスラエルは建国以来、「中東唯一の民主主義」をうたい、概ね、民主主義的な価値観を重視し、それが欧米や日本との関係強化の土台となってきた。民主的な選挙が定期的に行われ、占領下のパレスチナ人に対する二重構造によって「アパルヘイト」と批判される部分もあるが、弁護士や人権団体が裁判を通じてパレスチナ人の法的利益を訴えることは可能で、裁判所も必ずしも常にパレスチナ人に不利益な判断を下してきたわけではない。
しかし、それがむしろ、右派や極右による「最高裁判所はマイノリティである左派に乗っ取られている」などという主張につながる。社会が右傾化する中で、近年は右派が選挙で勝利することが多いが、自分たちの求める政策が最高裁判所に認められないと、右派は自らを左派メディアや司法に抑圧される「サイレントマジョリティ」だと位置付けてきた。これが目に見える形で現れたのが、ネタニヤフ政権による司法制度改革の試みだった。
直接のきっかけになったのは、ネタニヤフ首相の汚職をめぐる裁判だ。ネタニヤフ首相は知人から総額70万シェケル(約3000万円)に上るシャンパンや葉巻を受け取った他、メディアへの便宜供与と引き換えに自らに有利な報道をさせたなどとして、2019年に収賄、詐欺、特別背任の容疑で起訴され、公判が続いている。しかし、現職首相であるゆえに公判延期が相次いでいて、判決まであと数年はかかるとみられている。ネタニヤフ首相が望む司法制度改革が進めば、最高裁判所の権限を抑制し、権力に留まる可能性を広げることができるかもしれない。ただし、改革には時間がかかる。何より、2022年11月に総選挙が行われたイスラエルでは、国会議員の4年間の任期が終わる2026年秋までに次の総選挙が行われることになっている。
2023年10月のハマスの大規模テロ攻撃を受けて、ネタニヤフ首相の支持率は大きく低下した。しかし、米ドナルド・トランプ大統領の仲介による停戦で、ほぼ全ての生き残った人質と遺体が返還された。その後も一応の停戦は維持され、イランへの電光石火の大規模攻撃や、ハマスやヒズボラを弱体化させた成果により、首相の支持率は再び回復。前回選挙より議席を減らす可能性はあるものの、第1党をうかがう勢いだ。
判決前の「恩赦」には前例あり
奇跡的な支持率回復を果たしたものの、選挙まで1年を切り、汚職疑惑も晴れていない。こうした中、ネタニヤフ首相は2025年11月30日、国内政治に大きな爆弾を投下した。自身の汚職裁判について、イツハク・ヘルツォグ大統領に「恩赦」を要請したのだ。この要請に先立ち、トランプ大統領が25年10月にイスラエル議会で演説した際、ヘルツォグ大統領に向けて、「大統領、ネタニヤフ首相への恩赦を検討してはどうか。シャンパンや葉巻なんか誰も気にしない」と言い放った。演説の直前、ネタニヤフ首相はトランプ大統領に対し、恩赦に触れるよう耳打ちしていた。
イスラエルの基本法は、有罪判決を受けた者に大統領が恩赦を与える権限を認めている。しかし、ネタニヤフ首相のように公判中で判決を受けていない被告に対して「恩赦」を与えるというのは、異例中の異例だ。
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