ガザ・シリア情勢変化で「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」に新たな動き
2023年9月に立ち上がった「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC: India-Middle East-Europe Economic Corridor」構想は、欧州諸国、とりわけ地中海沿岸国であるフランスとイタリアにとって、重要な協力枠組みである。両国はIMECを通じて、インドや湾岸諸国との関係強化を図ると同時に、物流、エネルギー、投資分野における経済的恩恵の獲得を期待している。一方、IMECの実現に障壁となっているのが中東情勢であり、ガザ情勢やシリア情勢の不安定化がIMECの具体化に向けた制約となっている。
本稿では、まずフランスとイタリアがIMECの実現を目指す背景と狙いを分析し、次に制約要因として、ガザ及びシリア情勢が及ぼす影響について考察する。
ムンバイ~UAE、サウジ~ハイファ、欧州
IMECは、2023年9月にインドで開催された主要20カ国・地域(G20)首脳会合において立ち上げられた、インドから中東を経由し欧州へ結ぶ経済協力構想である。同構想は、(1)鉄道と海上輸送を結ぶ輸送分野、(2)大陸間のエネルギー及び電力インフラの連結を目指すエネルギー分野、(3)海底・陸上の光ファイバー網を整備するデジタル分野、の3つ柱でインフラを統合することを目的とする。2023年のG20時に交わされたIMECに関する覚書には、フランス、イタリア、ドイツ、EU(欧州連合)、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、インド、米国が署名した(参考:村上拓哉「「戦略的自律」が進む中東:BRICS拡大と「インド・中東・欧州経済回廊」で示したグローバル・プレイヤーとしての存在感」)。
IMECの輸送ルートではまず、インド西岸のムンバイが回廊の起点となり、ここからアラビア海を横断する海上輸送によって、貨物は中東有数の国際物流拠点であるUAEのジャバル・アリー港へと運ばれる。次に、貨物は鉄道輸送に切り替えられ、UAE西部のグワイファート付近からサウジアラビアに入り、ハラドを経由して首都リヤド、さらにヨルダン国境沿いのハディーサへと至る。その後ヨルダンを通過して、最終的にイスラエル北部のハイファ港に到達する。中東側の終着点であるハイファ港は地中海への出口として、欧州へと接続する重要な拠点である。さらに同港は、ギリシャのピレウス港、イタリアのトリエステ港、フランスのマルセイユ港と結ばれ、欧州側ネットワークの中核を形成している【図1】。
仏マルセイユ港は貿易・通信・水素のハブに
欧州諸国の中でも、とりわけフランスとイタリアは、IMECの実現に強い関心を示している。まずフランスは
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