ガザ・シリア情勢変化で「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」に新たな動き

IMECの実現は中東の安全保障環境に大きく左右される[イランからのミサイル攻撃を受けて炎上する石油精製プラント=2025年6月15日、イスラエル・ハイファ](C)REUTERS/Rami Shlush
インドから中東を経由し欧州へ結ぶIMECは、ガザ戦争により地中海への出口であるイスラエル・ハイファの安全に課題を抱えた。だが、欧州側でこの構想を主導するフランス、イタリアの意欲は依然として高い。シャラア政権のもとで再建が進むシリア沿岸部が代替拠点の候補に浮上しており、仏伊はガザ情勢への対応にとどまらず、シリア情勢の安定化に向けた関与を一層強めていく可能性が高いと考えられる。

 2023年9月に立ち上がった「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC: India-Middle East-Europe Economic Corridor」構想は、欧州諸国、とりわけ地中海沿岸国であるフランスとイタリアにとって、重要な協力枠組みである。両国はIMECを通じて、インドや湾岸諸国との関係強化を図ると同時に、物流、エネルギー、投資分野における経済的恩恵の獲得を期待している。一方、IMECの実現に障壁となっているのが中東情勢であり、ガザ情勢やシリア情勢の不安定化がIMECの具体化に向けた制約となっている。

 本稿では、まずフランスとイタリアがIMECの実現を目指す背景と狙いを分析し、次に制約要因として、ガザ及びシリア情勢が及ぼす影響について考察する。

ムンバイ~UAE、サウジ~ハイファ、欧州

 IMECは、2023年9月にインドで開催された主要20カ国・地域(G20)首脳会合において立ち上げられた、インドから中東を経由し欧州へ結ぶ経済協力構想である。同構想は、(1)鉄道と海上輸送を結ぶ輸送分野、(2)大陸間のエネルギー及び電力インフラの連結を目指すエネルギー分野、(3)海底・陸上の光ファイバー網を整備するデジタル分野、の3つ柱でインフラを統合することを目的とする。2023年のG20時に交わされたIMECに関する覚書には、フランス、イタリア、ドイツ、EU(欧州連合)、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、インド、米国が署名した(参考:村上拓哉「「戦略的自律」が進む中東:BRICS拡大と「インド・中東・欧州経済回廊」で示したグローバル・プレイヤーとしての存在感」)。

 IMECの輸送ルートではまず、インド西岸のムンバイが回廊の起点となり、ここからアラビア海を横断する海上輸送によって、貨物は中東有数の国際物流拠点であるUAEのジャバル・アリー港へと運ばれる。次に、貨物は鉄道輸送に切り替えられ、UAE西部のグワイファート付近からサウジアラビアに入り、ハラドを経由して首都リヤド、さらにヨルダン国境沿いのハディーサへと至る。その後ヨルダンを通過して、最終的にイスラエル北部のハイファ港に到達する。中東側の終着点であるハイファ港は地中海への出口として、欧州へと接続する重要な拠点である。さらに同港は、ギリシャのピレウス港、イタリアのトリエステ港、フランスのマルセイユ港と結ばれ、欧州側ネットワークの中核を形成している【図1】。

仏マルセイユ港は貿易・通信・水素のハブに

 欧州諸国の中でも、とりわけフランスとイタリアは、IMECの実現に強い関心を示している。まずフランスは

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
高橋雅英(たかはしまさひで) 中東調査会主任研究員 青山学院大学国際政治経済学研究科国際経済学専攻修士課程修了。専門は、中東・北アフリカ地域研究やエネルギー経済学、フランスの中東政策。外務省国際情報統括官組織専門分析員、国際協力機構(JICA)安全管理部専門嘱託を経て、2020年より中東調査会で勤務。2023年9月から2024年9月までアラブ首長国連邦(UAE)に駐在し、パリ・ソルボンヌ大学アブダビ校に所属。主な著作に、「UAE のクリーンエネルギー政策と天然ガス産業」(『中東研究』第551号、2024年)など。
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