トランプがロシアのウクライナ侵攻を「終わり」にできない構造的理由

執筆者:石本凌也 2026年2月5日
エリア: 北米 ヨーロッパ
強い立場からの交渉を好むトランプにとって、「取引」にはレバレッジが必要になる[ウクライナ和平をめぐるプーチン露大統領と米特使の会談を前に。左からウィトコフ米中東担当特使、ユーリ・ウシャコフ露大統領補佐官(外交担当)、キリル・ドミトリエフ露大統領当別代表、トランプ米大統領の娘婿クシュナー氏=2026年1月22日、ロシア・モスクワ](C)Alexander KAZAKOV / POOL / AFP=時事
「24時間以内に終わらせる」との言葉が今も実現しないのは、必ずしも見立ての甘さが理由ではない。政権発足後のトランプは、この戦争の自国にとっての位置づけとウクライナ支援の実施法を前政権から組み替えながらも、根本では関与の枠組みを踏襲している。アメリカは2014年のロシアのクリミア併合から現在まで、ロシアに対するエスカレーションリスクの管理を最優先として、いわば受け身の対応に留まっている。トランプ流の「取引」もまた、ロシアのアクションがあって初めて成立する受け身であり、トランプ政権のウクライナ支援は「何かが起こる」時のためのレバレッジとして続いている。

 2025年末から2026年頭にかけて、我々はまたもやアメリカに驚かされた。12月5日に『国家安全保障戦略』(NSS 2025)が公表され、そこでは西半球重視の姿勢が「モンロー・ドクトリンのトランプ・コロラリー」という形で明示された1。そして年が明けた1月3日の未明、NSS 2025で示された方針が、早速軍事作戦として実施されたのである。ベネズエラに対して米軍が実行した「アブソリュート・リゾルブ作戦(Operation Absolute Resolve)2」はこの上ない成功に終わり、ニコラス・マドゥロ大統領夫妻の身柄を拘束したことは、新年の衝撃であった。

 こうした新たな「驚き」が登場する一方で、継続している問題もある。そのうちの1つが、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻に端を発する「戦争」だ。両国間では、継続して烈度の高い戦闘が続いており、いまだ「終わり」の見通しは立っていない。今月末で、開戦から丸4年の月日が経過することとなる。

 侵攻されたウクライナを支えるのは、いわゆる西側諸国である。その中でも、アメリカからの支援は圧倒的であり、これがなければウクライナは立ち行かなくなるといっても過言ではない。事実、2022年1月24日から2025年10月末日までのウクライナ支援の割当額を国別にみると、アメリカ一国で約35%を占めている3

 しかしながら、ロシアによるウクライナ侵攻以降、アメリカを取り巻く状況も大きく変わった。いうまでもなく、一番大きな変化は大統領の交代である。「ホワイトハウスの主人」は民主党のジョー・バイデンから共和党のドナルド・トランプへと変わった。では、それに伴って、アメリカのウクライナ支援はどのように変化した、あるいは継続したのだろうか。本稿では、アメリカによるウクライナ支援の現状と、それを踏まえた上での中期的な文脈について検討する。そしてそこから、「トランプ2.0」理解へのインプリケーションを導き出してみたい。

ウクライナ支援の行方をめぐる3つの議論

 大統領選挙前からトランプが、自身が大統領に返り咲けば「ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる」と豪語していたことは、多くの人の記憶にあるだろう。もし第2次トランプ政権が成立したら、ウクライナ支援のあり方はどう変化するのか。この問題については、大統領選挙前からつぶさに論じられていた。そこでの議論は大きく3つに分けられる。1つは、支援の不確実性が高まるという主張である。大統領選挙でトランプが勝利した場合、「孤立主義」的な政権が回帰することとなり、支援の停止すら考えられていた。それは、「ウクライナにとって非常に危険な事態」であった4

 2つ目は、1つ目と関連するが、トランプ政権の意図が読めないという主張である。そしてそれは、ウクライナはもちろんのこと、アメリカとともにウクライナを支えてきた欧州諸国も同様の恐怖を抱えていた。元駐米ドイツ大使のヴォルフガング・イッシンガーは、欧州諸国は「パニックに陥り」、「アメリカが何を意図しているのかに怯えている」と欧州各国の状況を説明した5

 そして3つ目は、上述の2つと異なり、ウクライナ支援を継続、あるいはむしろアメリカの関与を強化するという主張である。アメリカ・カトリック大学のマイケル・キンメイジによれば、トランプが恐れ、最も避けなければならないのは、「負け犬(loser)」とみなされることだという。そうした烙印を押させないためには、自らの政権の期間において、「敗北」は避けなければならない。そのためには、支援の継続あるいは関与の強化しかないとキンメイジは述べる6

 第2次トランプ政権の発足に際し、こうした見込みが当初は存在していた。

議会の新規立法によらない支援の実行

 では、バイデン政権から第2次トランプ政権にかけて、実際の支援の状況はどのようになっているのだろうか。この点について概観してみたい。

 2022年の2月末以降、アメリカ連邦議会はウクライナへの支援を目的とした法案を5つ可決している。2022年3月に136億ドル、同年5月に409億ドル、同年9月に123億ドル、同年12月に474億ドル、2024年4月に613億ドルが「ヘッドライン」数値として計上されており、合計で約1750億ドルとなっている。それに加えて、2024年12月に、凍結されたロシア資産から生じる利息を財源とする200億ドルの融資の提供を決定しており、広範なウクライナ関連支援には、約1950億ドルが計上されている。そのうち、約1280億ドル(人道支援37億ドル、財政支援538億ドル、軍事支援706億ドルという内訳)が、ウクライナ政府へ直接援助として、実際に援助されている7

 いうまでもなく、これらはすべてバイデン政権期に決定された事項である。第2次トランプ政権成立後、今日に至るまで、連邦議会を通過したウクライナ支援のための独立した新規立法は存在しない。トランプ政権は、様々なウクライナ支援のスキームをパッケージングしながら追加予算を確保してきたバイデン政権8とは、やはり様相が異なる。

 2025年7月14日、第2次トランプ政権成立後、初めてウクライナ支援に関する新たな動きがみられた。トランプとマルク・ルッテNATO(北大西洋条約機構)事務総長が、ウクライナへの武器納入に関する新たなメカニズムを発表したのである。それは、NATO加盟各国が、自国の備蓄からウクライナに武器を送り、その代替品をアメリカから購入するというものであった。さらに、上記と別に、対外有償軍事援助(FMS)に基づき、アメリカはウクライナに対し、総額6億5200万ドルの武器を売却することを決定した。これは、地上戦を戦い続けるウクライナにとって、「控えめながらも有益」な決定であった9

 また、11月18日には、米国務省は1億500万ドル相当のパトリオット防空システムを維持するために必要な関連機器や訓練支援プログラムなどを売却する支援パッケージを承認した10。12月18日には、2026年度国防権限法(NDAA)がトランプの署名をもって成立した。その中にウクライナ支援の継続も盛り込まれている11。しかし、前者はFMSに基づいたものであり、後者は全般的な国防予算の大枠を決めるものであるため、ともにウクライナ支援を主目的としたものではない。

「ロシア・ウクライナ戦争の欧州化」を推進

 こうした一連のアメリカによるウクライナ支援の実態を踏まえると、バイデン政権からトランプ政権にかけて、どのような継続や変容があるといえるだろうか。

カテゴリ: 軍事・防衛 政治
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執筆者プロフィール
石本凌也(いしもとりょうや) 1996年福岡県生まれ。北海道教育大学教育学部(函館校)講師/東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。同志社⼤学⼤学院法学研究科博士課程(後期課程)修了。博⼠(政治学)。東京⼤学先端科学技術研究センター特任研究員を経て、現職。専門は、国際政治学、アメリカ政治外交史、国際安全保障論、日米関係史。主な業績として、『核兵器をめぐる相克:米ソ戦略兵器制限交渉と日米』(吉田書店、近刊)、“Japan’s Nuclear Balance: Deterrence and Disarmament,” The Washington Quarterly, Vol. 48, No. 3 (Sep. 2025); “Foreign Policy toward Japan regarding SALT II during the Carter Administration: Continuity and Discontinuity from the Ford Years,” ROLES REVIEW, Vol. 6 (Dec. 2024); 「⽶ソ戦略兵器制限交渉をめぐる⽇本外交1972-1979年:『被爆国』である『同盟国』の受容と主張」『国際政治』209号(2023年3⽉)など。
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