習近平総書記が失脚する? なぜ日本人は怪しげな中国政治ゴシップを信じるのか

IN-DEPTH【ニュースの深層】

執筆者:高口康太 2026年1月8日
タグ: 中国 習近平
エリア: アジア
“秘密の話”で世の中を面白く解釈したくなるのは人の性だが……[2025年12月4日、中国・北京のの人民大会堂で行われた合意文書署名式に出席した習近平氏](C)AFP=時事

「習近平総書記と軍部の権力争いが激化しているそうですね」

「すでに実権を失ったとも聞きました」

「健康問題が深刻で、もう満足に執務できないのだとか」

 テレビや雑誌などのメディア関係者と雑談していると、さも常識であるかのように中国の権力闘争や主要人物の健康不安に関する話題が上がるが、どう回答すればいいのか困っている。だいたい適当な笑顔でごまかすのだが。

 総書記の健康状態や中国共産党内部の派閥争いは最重要機密だが、それゆえに誰もが気になるトピックである。何が本当で何がウソかわからない政治ゴシップは絶えることなく出回り続けてきた。

 とはいえ、数年前まではあくまで中国語の世界だけの広がりでしかなかった。今は違う。怪しげな情報は世界に広がり、各国の言葉に翻訳される。それをメディアが取り上げ、呼び出されたコメンテーターが解説する。まっとうな専門家ならば真偽定かならぬ情報には一定の留保をつけて “バックグラウンド”を説明するが、それがさらに引用される過程では“バックグラウンド”は抜け落ちる。気づけばなにやら真実味のある情報として定着し、ソースロンダリングが完了する。

ネタ元としての「法輪功系メディア」との付き合い方

 中国政治ゴシップがどこまで日本に広がっているのか。象徴的だったのが、BS-TBS「報道1930」が2025年7月8日に放映した「「中国で権力の移行が起きている」"独裁"強めた習主席"失脚"あるのか」だ。台湾のシンクタンク、国防安全研究院の沈明室研究員が習近平総書記の健康不安説を唱えたのだが

昨年夏ごろ国際報道ニュースを賑わせた「習近平失脚説」とは何だったのか。中国政治ゴシップは、いわば「無意味ではない雑音」だ。中国人の願望を探るためのツールとしては有用だが、党中央の内部動静を知る手段として丸のみするのはナイーブすぎる。
カテゴリ: 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
高口康太(たかぐちこうた) 1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト、千葉大学客員教授。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国・天津の南開大学に中国国費留学生として留学中から中国関連ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。中国経済と企業、在日中国人経済を専門に取材、執筆活動を続けている。 著書に『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 』(文春新書、共著)、『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、共著)、『中国S級B級論』(さくら舎、共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、共編、大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)、『習近平の中国』(東京大学出版会、共著)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top