ドイツの首都ベルリンで、極左グループの電力インフラ損壊による停電が多発している。連邦内務省は、極左勢力に対する監視・捜査を強化する方針を明らかにした。捜査の焦点の一つは、欧州で多発するサボタージュの背後にロシアが関与しているかどうかだ。
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1月11日、ドイツ連邦内務省のアレクサンダー・ドブリント大臣(キリスト教社会同盟・CSU)は、ベルリンで行った記者会見で、「我々は反撃する。我々は極左勢力や過激な気候保護主義者たちが暴れるのを放置しない。今後は極左勢力に対する捜査体制を強化する」と発表した。内務省は、連邦憲法擁護庁で極左勢力を担当する捜査員の数を増やすとともに、極左勢力のネット上の動きの監視を強化する。連邦憲法擁護庁は、極右・極左組織や外国のスパイ、イスラム過激派などを監視・摘発する捜査機関で、スパイの投入や通信の傍受など、警察よりも隠密性・秘匿性が高い捜査を行う。
ベルリンで戦後最長の広域停電
政府が極左に対する捜査体制を強化する理由は、1月3日から約5日間にわたってベルリンの南西部で発生した広域停電である。その原因は、リヒターフェルデ地区の天然ガス火力発電所の西側で起きた火災だ。運河をまたぐ架橋に設置された、高圧送電線3本と中圧送電線10本が放火によって損傷した。このため、運河の対岸の5つの地区の、約4万5400世帯の家庭、約2200社の企業で停電が起きた。
この時期ベルリンは寒波に襲われており、夜間の気温はマイナス3度から4度前後だったが、一部の家庭では電力だけではなく、暖房の供給も停止した。ベルリン市役所は、多数の救急車を投入して、お年寄りや病人を他の地区の介護施設や病院に移送するとともに、暖房がある体育館に簡易ベッドを置いて避難所を開設した。15カ所の学校や託児所が閉鎖された他、200カ所を超える医療施設が使えなくなった。
ベルリンは都市だが、その市当局は州政府と同列である。同市のカイ・ヴェーグナー市長は、1月4日に災害救助法に基づく「大規模災害状況」を発令し、1月5日に連邦軍の出動を要請した。
ベルリンの配電事業者シュトローム・ネッツ・ベルリン(SNB)は、復旧工事を進めるとともに、他の州から多数の非常用ディーゼル発電機をかき集めて、停電発生から約100時間後に全ての家庭・企業への通電を再開させた。これは第二次世界大戦後にベルリンで起きた停電としては最も長かった。ドイツは平均停電時間が世界で最も短い国の一つである。連邦系統規制庁によると、2024年の市民一人当たりの平均停電時間は11.7分だった。この数字から、ベルリンでの停電の深刻さがわかる。
SNBによると、ベルリン市内の総延長約3万5000キロメートルの送配電系統の内、99%は地中に埋設されているが、今回放火された送電線は、運河をまたぐ架橋の上に設置されていたため、露出していた。犯人たちは架橋の下で可燃物に点火して、高熱により送電線を損傷させた。
謎に包まれた極左集団「火山グループ」が犯行声明
停電発生後、「火山グループ」と名乗る極左集団がインターネット上に、「二酸化炭素を排出して、気候を破壊する天然ガス火力発電所を停止させるために、放火を実行した」という犯行声明を発表した。
火山グループは2011年からベルリン市内および周辺部で、13回にわたって電力インフラなどへのサボタージュ(破壊活動)を行ってきた。このグループは電力会社などの企業や富裕層を標的にすることで知られる。火山グループと名乗る理由は、2010年にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山の爆発による噴煙のために、欧州の旅客機の運航が何週間にもわたって麻痺した事件のように、経済システムに支障を与えることを意図しているためと見られる。
火山グループは、2018年3月にはベルリンのシャルロッテンブルク・ヴィルマースドルフ区で送電線に放火して、約6500世帯で停電を引き起こした。2024年3月にはブランデンブルク州のグリュンハイデでテスラの工場に電力を供給していた送電線に放火し、電気自動車の生産を一時中断させた。
ただし捜査当局は、火山グループに属する容疑者をまだ一人も逮捕していない他、構成員の数も把握していない。連邦憲法擁護庁が2025年6月に公表した、極右・極左・イスラム過激勢力に関する報告書の中でも、火山グループについての記述は少なく、監視対象として重視されていなかったことがわかる。
ドイツの論壇では、警察による摘発が遅れている理由について、「火山グループが固定した構造や構成員を持たず、分散した極左活動家たちが、犯行のたびに名前だけを使っているのではないか」という憶測が出ている。いわば放火テロ犯がグループ名だけを使う「フランチャイズ方式」である。
ちなみにベルリンでは、火山グループ以外の極左集団が、電力インフラに対する攻撃を行ったケースもある。2025年9月9日に高圧線が放火され、約4万3000世帯の家庭と、約3000社の企業が停電の影響を受けた。通電が完全に復旧するまでに約60時間かかった。この時にインターネット上に犯行声明を出したのは火山グループではなく、「数人のアナーキスト(無政府主義者)たち」と名乗るグループだった。
欧州で多発する破壊活動にはロシアが関与?
ドイツ政府は、去年9月からの4カ月間に2回、極左グループが首都ベルリンで広域停電を引き起こしたことを重く見ている。このため1月6日に、カールスルーエの連邦検察庁が、火山グループに対する捜査を担当することを発表した。連邦検察庁は、極右・極左勢力やイスラム過激派によるテロ、外国の諜報機関によるスパイ活動など、ドイツの国家体制に重大な脅威を及ぼす犯罪だけを担当する。連邦検察庁が事件を担当するという事実に、同国政府が極左勢力による破壊活動に懸念を強めていることがうかがわれる。
欧州では去年以来、公共機関を狙ったサボタージュが増えている。9月22日には、デンマークのコペンハーゲン空港とノルウェーのオスロ空港付近でドローンと見られる飛翔体が確認され、旅客機の離発着ができなくなった。空港の一時閉鎖によって約100便が欠航し、約2万人の乗客が影響を受けた。この日から9月28日まで、デンマークの他の7カ所の空港や空軍基地の上空でもドローンが視認された。10月1日、ドイツ北部のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の造船所、原油精製施設、発電所、州議会、大学病院の上空、およびメクレンブルク・フォアポンメルン州の連邦軍の対空ミサイル基地の上空でドローンが確認されたことが明らかになった。
またドイツ南部のミュンヘン空港の周辺では、10月2日夜と10月3日夜に2度にわたって数機のドローンが確認されたため、管制官が旅客機の離着陸を禁止した。10月4日付のドイツ第1テレビ(ARD)のニュースサイトによると少なくとも81便が欠航したか、離着陸できなくなり、多数の乗客が空港の簡易ベッドで夜を明かした。また10月2日から3日にかけて、ベルギー軍のエルセンボルン基地上空でも、15機の浮遊型ドローンが確認された。いずれの事件でも、犯人は検挙されていない。
ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、10月5日に公共放送局ARDのトークショーで「ドローンによる妨害工作は、安全保障に対する深刻な脅威だ。私は、このドローン飛来の背後に、ロシアがいると考えている。彼らは、我々の出方を試している」と述べた。
火山グループの実態が解明されていないために、背後にロシアなど外国勢力がいるかどうかについては不明だ。だがキリスト教民主同盟(CDU)のローデリヒ・キーゼベッター連邦議会議員は、1月5日に、ドイツの日刊紙ヴェルトに対して、「火山グループの犯行声明に使われているドイツ語の表現には、ロシア語からの翻訳と思われる部分がある。ロシア人が加わっているのではないか」という推測を語った。これに対しベルリン警察のマルコ・ラングナー副総監は1月6日、「ロシアが関与していることを示す証拠はない」と否定している。さらに火山グループもインターネット上に「我々は外国政府とは一切関係がない」という声明を発表した。
火山グループは、1月8日に、「我々は企業や富裕層に対しては容赦しない。だがこれほど多くの市民に影響が出るとは思わなかった。高齢者や病人など、多くの市民が停電や暖房器具の停止で影響を受けることがわかっていたら、我々はこの攻撃を夏に行っていただろう」と弁解する声明を発表した。
極右犯罪の多発で極左摘発に遅れ
これまで極左過激派に対する監視や捜査がおろそかになっていた最大の理由は、連邦憲法擁護庁がネオナチなど極右勢力の監視・取り締まりに重点を置いてきたためだ。
連邦刑事局によると、2024年には、極右的な動機に基づく犯罪摘発件数は前年に比べて47.5%増えて、3万7835件にのぼった。これに対し、2024年に摘発された、極左的な動機を持つ犯罪の件数は、5857件に留まっている。このため捜査当局は、極右勢力に重点を置いた。
ドイツでは21世紀に入って極右勢力による凶悪犯罪が多発している。2011年には、極右テロリストによる、凶悪犯罪が明るみに出た。旧東ドイツ・テューリンゲン州イエナ出身の3人のネオナチが、2000年からの7年間に、トルコ人やギリシャ人の商店主ら9人と、ドイツ人の警察官1人を射殺していたことが判明した。彼らはこの他にも43件の殺人未遂、15件の強盗、3件の爆弾テロを実施した。
2019年6月には、ヘッセン州カッセルのヴァルター・リュプケ区長(CDU)が、ネオナチの若者によって自宅で射殺された。彼は当時のアンゲラ・メルケル首相の難民政策に賛同しており、この政策に批判的な極右関係者に対して「今の難民政策が気に入らない者は、ドイツを去ってもかまわない」と言ったために命を奪われた。
同年10月には極右思想を抱いていたドイツ人が旧東ドイツのハレでユダヤ教の礼拝施設に侵入して、自作した銃で多数のユダヤ人たちを射殺しようとした。だが入り口が厳重に施錠されていたために、テロリストは内部に入ることができず、通行人と商店経営者の2人を射殺した。
2020年2月には、旧西ドイツ・ヘッセン州のハーナウで、極右思想を持ったドイツ人が、商店やバーにいた移民系市民9人と自分の母親を射殺した後、自殺した。
このように極右勢力による凶悪事件が多発したため、連邦刑事局や連邦憲法擁護庁は極右に対する監視・捜査を強めていたのだ。2024年度版連邦憲法擁護庁報告書も、極右勢力について75頁を割いているのに対し、極左勢力についての記述は57頁に留まっている。
ただし、ソ連の影響下の国が、極左勢力を支援した事例はある。東西冷戦の期間中に、社会主義国東ドイツの秘密警察・国家保安省(シュタージ)は、西ドイツの赤軍派(RAF)のテロリストに潜伏場所を提供するなどして、間接的に支援していた。このことは、シュタージの保管庫で見つかった文書によって確認されている。つまり東側陣営は、西ドイツ社会を不安定化させるために、左翼過激派を支援していたのだ。
北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間の緊張が高まっており、ロシアによるハイブリッド攻撃の可能性も完全には排除できないことから、捜査当局は今後極左によるサボタージュにも目配りをすることを迫られるだろう。