米・イスラエルのイラン攻撃は「出口不明」
Foresight World Watcher's 6 Tips
米国とイスラエルによるイラン攻撃は、初動で最高指導者のアリ・ハメネイ師が殺害されるという衝撃的な開始となりました。革命防衛隊の司令官や国防大臣など、軍部の主要人物も同時に死亡したと伝えられます。
昨年6月の12日間戦争では、双方とも実際の被害は限定的な攻撃が行われ、いわば「エスカレーションが管理された衝突」の性格がありました。しかし、今回は最初からエスカレーションの頂点に上ってしまった様子があります。つまり、これは双方がメッセージを誇示するための攻撃ではなく、米・イスラエル側の視点に立てば「イランとの力関係を根本的に変える決断」をしたことを意味するでしょう。
問題は、米・イスラエルは具体的には何をどう変えるつもりなのか、それが見えてこないことです。ドナルド・トランプ米大統領は、「攻撃が終わったら、あなたたちの政府を奪い取るのはあなたたち自身だ」との声明を出しました。ハメネイ師の斬首を実行した後に、どのような後継体制を想定しているのか、そしてそれにどこまでコミットする意思があるのか、これについては何も語っていないに等しいと言えます。つまり、出口戦略が見えません。
ハメネイ師の後継者としては、2024年のヘリコプター事故でエブラヒム・ライシ大統領が死亡して以降、現実的なシナリオはイランも持っていないと考えられます。ハメネイ師の息子のモジタバ・ハメネイ師や、1979年のイラン革命を主導したルーホッラー・ホメイニ師の孫、ハッサン・ホメイニ師などの名前が浮上してきましたが、最高指導者になるには宗教的資格だけでなく、政治的能力・経験も事実上求められます。これを満たす人物は見当たらないようです。ただ、イランの体制は、かつてのリビアやシリアのように、一人の独裁的な権力者がすべてを握り、その人物を排除すれば即体制崩壊という構図にはありません。
一方で、体制転覆後を担う有力者も国内外に見当たりません。イラン現体制は当面、合議による戦時統治体制が敷かれるようです。イランは昨年8月、外交・国家安全保障政策を決定する最高機関である国家安全保障評議会の下に、事務局的な位置づけで国防評議会を設置しました。12日間戦争で有事の意思決定を整える必要を教訓として得たがゆえと考えられ、ここに加わるメンバーの合議で戦時統治が行われます。評議会の書記であるアリ・ラリジャニ氏は1日、新たな指導者が就任するまで、大統領、司法府の長、憲法評議会の法学者のうち1人が職務を引き継ぐことになると述べました。
こうした中で注目しておかなければならないのは、やはりレバノンのヒズボラなど、イランの代理勢力の反応です。イランの地域ネットワーク(“抵抗の枢軸”)は、2023年以来のイスラエルとの戦いでヒズボラの最高指導者ナスララ師が死亡するなど、弱体化しているとの見方があります。イラクの親イラン武装組織「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」の軍事行動も抑制された状態のようです。しかし、イランの体制そのものが崩壊する危機を迎え、こうした勢力が再び活発化することが懸念されます。また、米軍の攻撃が今後、こうした勢力に対するイランの支援網を叩くという方向に拡大すれば、結果として戦域も拡大します。
日本への影響についていえば、ホルムズ海峡封鎖で原油輸入に影響が出ることが懸念されます。これまでホルムズ海峡封鎖については、「封鎖すれば、イランの体制にとってリスクになる」という理由で現実性が低いとの見方がありましたが、これもイラン側がエスカレーション管理の姿勢を根本的に変えるのなら、以前と同じように考えることはできません。
中東に混乱を生むことだけが目的のようにすら見える米・イスラエルによる攻撃を、海外メディアはどう捉えているのでしょうか。フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事6本、皆様もぜひご一緒に。
Ayatollah Ali Khamenei, Iran's supreme leader, 1939-2026【Najmeh Bozorgmehr/Financial Times/3月1日付】
「1989年、アリ・ハメネイがルーホッラー・ホメイニ師の後継としてイランの最高指導者に任命された際、彼は自身が資格不足だと主張した。/[略]しかしハメネイはその後、イラン近代史上、最も長く統治した指導者のひとりとなった。当初の謙虚さは次第に権力の放棄への消極性と、それを維持するための強硬派への依存へと置き換わっていった」
英「フィナンシャル・タイムズ(FT)紙サイトは、イランの国営メディアがその死を報じた後すぐ、死亡記事「アヤトラ・アリ・ハメネイ――イランの最高指導者、1939~2026年」(3月1日付)を掲載した。筆者はテヘラン特派員のナジメ・ボゾルグメルで、記事は1600語を超え、彼の生い立ちからキャリア、人となり、家族にまで及ぶ。
だが、現時点での最大の読みどころは、彼が死に至る直接の原因となった“ハメネイ外交”についてのくだりだ。
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