ホルムズ海峡から波及する「食糧危機と社会不安」

Foresight World Watcher's 5 Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2026年4月5日
アジア開発銀行は、戦争長期化で南アジアの経済成長率が0.8ポイント、東南アジアが最大2.3ポイント低下すると分析[燃料価格と生活費の高騰に抗議するデモ参加者=2026年4月2日、タイ・バンコク](C)EPA=時事

 ドナルド・トランプ米大統領は1日の国民向け演説で、停戦に応じなければ「石器時代に引き戻す」とイランに強い圧力をかけました。ベトナム戦争、湾岸戦争、2001年9月11日から始まる対テロ戦争の際にも時の要人が使ったフレーズです。攻撃の長期化も辞さぬ構えを伝えるメッセージだと見るべきでしょう。

 ただ、停戦交渉がこの先動き始めるにしても、ホルムズ海峡の封鎖状態が早々に解消されるとは考えにくい。イランは海峡の対岸のオマーンとともに通航について協議しているとされますが、仮に通航料を徴収することになったとしても、開戦前の航行量を回復するのは手続きの面からも難しいとも指摘されます。

 日本国内ではナフサ不足や電力価格高騰などに早急な対応が必要ですが、目を国外に転じれば、エネルギーの大動脈停止が与える打撃は経済の問題を超えて広がります。

 たとえば、天然ガスは窒素肥料の原料であると同時に、その製造に不可欠なエネルギーにもなっています。肥料市場の逼迫は農業の現場を直撃し、穀物生産量の低下や食料価格上昇につながります。世界の主要な食糧生産地域では、すでに肥料集約度の低い代替作物に転換する動きが出ています。

 また、ホルムズ海峡封鎖はまずアジアに大きな打撃となりますが、東南アジア、南アジアの国々では燃料配給や使用制限が行われ、人々の生活コストを上昇させています。これが社会不安に結びつく可能性も見逃せません。4月3日に軍政首脳が大統領に就任したミャンマーを始め、政権の安定性リスクに結びつくことを懸念する議論が出ています。

 より大きな構図では、化石エネルギーそのものではなく、再生可能エネルギーも含めた「電力」の中核技術を握る戦略を進めてきた、中国の影響力の行方が注目されます。米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌サイトに掲載された歴史研究者ニルス・ギルマンによる論考「電力国家vs.石油国家」(詳細、後出)は、多くのアクセスを集めているようです。

 今回は、ホルムズ海峡発のエネルギー危機が、政治や社会問題などに波及するリスクの在り方に着目しました。自国に配備されたTHAAD(高高度防衛ミサイル)が中東に移されることに動揺する韓国の反応、そして市場関係者にはイラン戦争と並ぶ懸念要因として意識されているプライベート・クレジット危機に関する記事も加え、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事5本。

 皆様もぜひご一緒に。

How the Gulf's war is becoming Asia's crisis too【Economist/4月1日付】

「シンガポールのビビアン・バラクリシュナン外相は先週、ロイター通信に対し、この戦争は『アジアの危機』だと語った。通常、ホルムズ海峡を通過する石油の約80%、天然ガスの約90%は、アジア市場向けだ。/[略]フィリピンではエネルギー輸入の90%以上を中東に依存しており、バングラデシュ、インド、パキスタンは、総LNG[液化天然ガス]供給量の3分の2近くをこの海峡経由で受け取っている」
「日本は、1970年代のオイルショックの経験から積み上げた、国内需要の254日分に相当する戦略石油備蓄を誇っている。しかし、国内各地では燃料不足によりバスやフェリーの運行が縮小されている。日本の銭湯も燃料費の高騰により経営が逼迫しており、全国各地で一時的あるいは恒久的な閉店を発表しているところもある。また、人気スナックメーカーの山芳製菓は、フライヤー用の重油が底をついたため、ポテトチップスの生産を一時停止せざるをえなくなった」

 英「エコノミスト」誌の「湾岸の戦争がいかにしてアジアの危機ともなりつつあるか」(デリー/メルボルン/シンガポール/東京発、4月1日付)はこのように始まり、ホルムズ海峡の封鎖がアジア経済にもたらす3大リスクを次のように挙げる。

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