日本の「稼ぎどころ」は最終利益の「手前」に広がる――米国の成長課題を支える現場に日本企業の強み
対米投資を企業の目線で見る
3月19日の日米首脳会談を経て、日米の経済関係はあらためて注目を集めた。2025年を通じて、日米間では通商、経済安全保障、サプライチェーンをめぐる協議が重ねられ、対米投資は重要なテーマとして位置づけられてきた。2025年7月の日米間の合意では、対米投資・融資・保証を通じて最大5500億ドル(約87兆円)規模の資金を重点分野に振り向ける構想が打ち出された。
ここではどうしても、「日本はどこまで負担するのか」「利益は誰に帰属するのか」といった論点に目が向きやすい。もちろん、それ自体は大事な問いだ。ただ、企業の目線で見たとき、より重要なのは別の点にある。個々の案件のなかで日本企業がどの工程に入り、どのくらい長く、どのような形で収益を上げられるのかという点だ。
これまでに公表された対米投資の案件をみると、その特徴は比較的わかりやすい。対象分野は異なるが、共通しているのは、いずれも米国の成長や産業運営にとって重要性の高い領域に関わっていることだ。電力、重要素材、輸出能力、どれも、将来の成長を支えるうえで欠かしにくい。注目すべきは、個別案件の顔ぶれそのものというより、そうした分野に日本企業がどう関与し、どこに収益機会を見いだせるかという構図だ。
「配分」より前にある、企業の稼ぎどころ
今回の対米投資の枠組みでは、案件ごとに特別目的事業体(SPV)が設けられ、そのSPVに資金が入り、個別プロジェクトを動かしていく構図が基本になっている。議論が「利益配分」に集まりやすいのは、このSPVに最終的に残る利益がどう分けられるのか、また誰が管理・統治を握るのかが、制度の見取り図の中で最も目につきやすいからだ。そこに関心が集まるのは自然なことだろう。ただ、企業実務はそこだけで動いているわけではない。
実際に企業が収益を上げる場面は、そのもっと手前にいくつもある。設備の供給、建設、制御システム、保守、運転支援、交換部品、性能保証、更新、増設、デジタル監視。案件の寿命が長いほど、こうした「途中の仕事」はむしろ厚くなっていく。
言い換えれば、政府間で見える財布と、企業が日々売上を立てる財布は必ずしも同じではない。SPVの管理や最終的な利益の帰属は米側に寄りやすく見えるとしても、日本企業が収益を得るのは、多くの場合、そのSPVや関連事業者と結ぶ商取引のなかである。供給契約、EPC(設計・調達・建設)、O&M(運転・保守)や更新、そこでどれだけ長く関与できるかによって、実利はかなり変わってくる。
最終的な分配の姿だけを見ていると、日本企業にとっての実利を過小評価しやすいのはこのためだ。むしろ企業にとって大事なのは、案件のなかで自社の「稼ぎの席」がどこにあるのか、それを契約でどこまで押さえられるかである。
第一の型:AI時代の電力を支える
稼ぎどころのあり方として、まず分かりやすいのがAI(人工知能)向けを含む電力に関する商取引だ。
AIやデータセンターの話になると、半導体やソフトウェアが注目されがちだが、現実には電力がなければ何も動かない。必要なのは「どこかで足りている電力」ではなく、「必要な場所に、必要なタイミングで、止まらず届く電力」だ。
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