2026年4月12日のハンガリー総選挙では、16年にわたり政権を担ってきたオルバーン・ヴィクトル首相率いる与党フィデスが大敗し、ティサ党による政権交代が実現することになった。
オルバーン政権は、従来よりEUに対して懐疑的な姿勢を示してきたが、近年は対決姿勢をさらに強め、ウクライナ支援をはじめとして拒否権を頻繁に行使してきた。EUの拒否権をまとめたデータベースによれば、2011年6月以降にEU首脳会議や閣僚級会合で行使された外交に関する拒否権(48回)のうち、約半数はハンガリーによるものとされる1。また、エネルギー分野を中心にロシアとの関係を強めるとともに、中国とも企業進出やインフラ投資を通じた関係を深めてきた。
ティサ党の勝利を受け、日本や欧米の多くのメディアでは、マジャル新政権発足後のEUやウクライナとの関係改善、さらにはロシアや中国への依存からの脱却に期待する見方が広がっている。対外政策の分野でマジャル新政権はいかなる姿勢ないし政策路線をとるのだろうか。本稿では、マジャル・ペーテルやティサ党幹部の発言、合計240頁にわたる党の綱領、そして海外の研究者による分析などをもとに、ハンガリー新政権が現時点で掲げる外交政策の方針を整理することとしたい。
新政権において誰が対外関係を担うのか
そもそも、政権交代を成し遂げたティサ党のマジャル新政権において、誰が対外関係を主導するのだろうか。マジャル党首は2026年1月、ビジネス界の「ビッグネーム」とされる人物をエネルギー担当および外交担当の大臣候補としてそれぞれ指名しており、マジャル党首自身に加えて、これら両候補が重要な役割を果たすものと考えられる。
まずは、間もなく首相に就任する予定のマジャル党首である。ティサ党を本格始動させる以前は、開発銀行の監査役や学生ローンセンターCEOなど国内職が中心であったが、対外関係の分野では、2024年の欧州議会議員としての経験に加え、かつてハンガリーのEU代表部において外交官を務めた経歴を有する。
次に副首相および外交担当の閣僚には、オルバーン・アニータ(オルバーン・ヴィクトル首相との血縁関係はない)が就任予定である。同氏は米タフツ大学フレッチャースクールで博士号を取得し、『Power, Energy, and the New Russian Imperialism』を執筆するなど、アトランティスト(大西洋主義者)であると同時に、ロシアの外交政策やエネルギー政策に精通している知露派として知られる2。これまでエネルギー安全保障担当特使や英通信大手ボーダフォンのグループディレクターを歴任してきた。選挙期間中には、欧州を中心に国外にいるハンガリー人コミュニティを訪れながら、現地の政府高官との面会も積極的に実施しており、外国政府高官とのネットワーキングをすでに始めていたものとみられる。
さらに、経済開発・エネルギー担当相にはカピターニ・イシュトバーンが起用される見込みである。同氏は英石油大手シェルのグローバル執行副社長を務めた経験を持ち、ハンガリー政府から勲章を授与された実績を有するなど、オルバーン・アニータと同様に国際的に活躍してきた企業出身者である(表1)。
このような布陣の下で、新政権の対外政策はいかなる特徴を帯びるのか。以下では主要分野ごとに検討する。
対EU関係:関係改善を図るも一部政策においては反対
マジャル党首率いるティサ党の綱領では、以下のように述べられており、欧州への回帰を明確に主張している。
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