「中国-イラン直通鉄道」開通、狙いは「ロシア迂回ルート」の強化にあり

IN-DEPTH【ニュースの深層】

執筆者:高口康太 2025年8月5日
エリア: アジア
「中欧班列」によって、海に面していないため輸出に不利だった中国西部は、欧州に近い好立地へと転じた[中国江蘇省連雲港市の物流基地で「中欧班列」向けに積み込まれるコンテナ=2025年5月22日](C)CFOTO/Sipa USA via Reuters Connect
国際政治でロシアとの友好関係をアピールする中国だが、ビジネスではロシア・リスクを無視できない。中国と欧州を結ぶユーラシア横断鉄道の顧客、欧州企業はロシア経由の輸送を避けたがる。これに対応すべく中国は、ロシアを迂回するルートを強化している。最近開通した中国-イラン直通鉄道も、イラン市場へのアクセス以上に「脱ロシア」と見るべきだ。

 2025年5月、中国とイラン・アプリン陸港(テヘラン郊外)を結ぶ「中伊鉄路(中国・イラン鉄道)」の正式運用が始まった。陝西省西安市からカザフスタン、トルクメニスタンを経由する東線、新疆ウイグル自治区カシュガルからキルギス、タジキスタン、アフガニスタンを経由する西線がある。ユーラシア横断鉄道(中欧班列)の一路線として、中国とイランを直接つなぐ鉄道は、一部では米国の制裁を突破する強力な武器になるとの見方もあるが、一方でビジネスの論理からは、ロシア対策という別の姿が見えてくる。

 中欧班列の主要ルートはロシアを通過するが、ロシア・ウクライナ戦争によって状況が変わった。顧客となる欧州企業はロシア経由の輸送に難色を示している。ロシア政府は2024年10月より機械類、電子類などの「デュアルユース」(軍民両用品)の差し押さえを行っており、規制対象外の貨物も巻き込まれて滞留するケースも多い。こうした問題から中欧班列の輸送量は減少している。今年1月から4月の貨物量は前年同期比で22%減少している。

 こうした状況下で、ロシアを経由しない中国・欧州の輸送経路の開拓に注目が集まっている。それが「中央回廊」だ。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
高口康太(たかぐちこうた) 1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト、千葉大学客員教授。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国・天津の南開大学に中国国費留学生として留学中から中国関連ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。中国経済と企業、在日中国人経済を専門に取材、執筆活動を続けている。 著書に『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 』(文春新書、共著)、『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、共著)、『中国S級B級論』(さくら舎、共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、共編、大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)、『習近平の中国』(東京大学出版会、共著)など。
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