トランプ大統領の発言とアクション(3月5日~12日):米国を揺さぶる原油高、「3つのM」と「海上再保険」が示す対応の限界
「3つのM」と原油ショックの連鎖がもたらす打撃
「資源リスクが軍事的な成果の価値を上回り始め、紛争の結末は“3つのM”に左右される」――JPモルガンのストラテジスト、ファビオ・バッシ氏は、2月28日に開始した米・イスラエルのイラン攻撃についてこう指摘した。3つのMとは、市場(Markets)、弾薬(Munitions)、そして中間選挙(Midterms)である。
ドナルド・トランプ大統領は3月2日、イランへの軍事作戦について4~5週間、長期化にも対応可能」と述べたが、バッシ氏は長期戦に明確な制約があるとみる。
まず市場だが、「TACO:Trump Always Chickens Out(トランプ氏はいつも日和る)」の言葉に象徴されるように、これまでも株安や金利上昇に反応して強硬姿勢を緩めてきた。今回、そこに原油高が加わった格好だ。WTI原油先物が一時119ドルと2022年6月以来の高値をつけた直後、S&P500は2025年11月以来の安値をつけ、米10年債利回りも約1カ月ぶりに4.2%へ上昇。原油発の市場の緊張に反応したのか、トランプ氏はイラン軍事作戦の「終結が近い(very soon)」と発言した。停戦の兆しが見えない中での発言だっただけに、「TACOの再来」と受け止められたのも無理はない。
「ガソリン高」からの金利上昇
今回、新たに加わった原油高はガソリン価格を押し上げ【チャート1】、家計を圧迫する。インフレ懸念を通じて金利上昇→株安につながり、中間選挙にも逆風となる。米債券運用大手PIMCOは、エネルギー価格が20%上昇すれば、消費者物価指数を1%ポイント押し上げると試算している。120ドルヘ接近したWTI原油先物は2月27日比で78%も急伸となり、95ドル付近へ下落した直近でも40%超の上昇だ。
加えて、2月雇用統計では、非農業部門就労者数が前月比9.2万人減と、予想外に減少した。失業率も4.4%と前月を上回り、雇用に減速の影が見える。このような状況下、ウォール街の強気派株式ストラテジストのエド・ヤルデニ氏は、イラン攻撃を受けて1970年代型スタグフレーションの確率を35%へ引き上げた。
「弾薬不足」からの金利上昇
軍事作戦の足かせとなるのは「弾薬」不足だ。国防の要である地対空誘導弾パトリオットの中でも弾道ミサイル迎撃の主力となるPAC‑3MSEの生産能力は、年間約550〜650発にとどまる。ウクライナ支援と中東での需要増が重なり、供給能力は限界に達している。また、2025年6月のイラン攻撃後の時点で、米国のパトリオット保有数は国防総省が必要としている水準の約25%に低下していた。
弾薬不足は軍事的制約にとどまらず、財政面にも悪影響を及ぼす。今回の軍事作戦は開始当初の2日で56億ドル相当の弾薬が使用されたという。また、国防総省関係者による議会への報告によれば、米国は軍事作戦開始から6日間で113億ドル、1日当たり19億ドルを費やしている(初期攻撃に先立つ軍備や要員の増強といった、作戦に伴う多くの費用が含まれず)。これは、戦略国際問題研究所(CSIS)が予測した1日当たり8.9億ドルの2倍に相当する。
軍事作戦以前から、ホワイトハウスは2027年度の予算で1.5兆ドル規模の国防予算を要求していた。これはGDP(国内総生産)比4.6%に相当し、足元のGDP比3.7%からの上げ幅は過去60年で最大レベルとなる。加えて、マイク・ジョンソン下院議長は、戦時対応としてホワイトハウスが約500億ドルの補正予算を要請する見通しだと語った。
こうした軍需支出の急増は、
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