新たな最高指導者を選出したイラン・イスラーム共和制の生存戦略――体制のレジリエンスは米国の継戦意欲を上回るか

執筆者:村上拓哉 2026年3月11日
エリア: 中東
モジュタバ―は父と同じく保守強硬派思想の持ち主であり、さらに2009年の緑の運動では改革派による抗議デモの厳しい弾圧を主導したとされている[2024年10月3日、イラン・テヘラン](C)AFP=時事/ HANDOUT / KHAMENEI.IR
体制護持を至上の課題とする指導部は、体制のレジリエンスが米国の継戦意欲を上回ると確信しており、徹底抗戦でこれを乗り切ろうとしている。米・イスラエルが新たな最高指導者モジュタバーも暗殺の標的にすることは疑いないが、次に選ばれる指導者も抵抗を継続するだろう。しかし、仮にこの戦争が米・イスラエルの戦略目標の達成失敗で終わるとしても、それがイランにとって輝かしい勝利になることはない。

 昨年7月、筆者はForesightで執筆した「それでもイランは地域大国であり続ける――「12日間戦争」で傷ついた威信と試されなかった体制のレジリエンス」にて、イランは昨年6月のイスラエルの軍事攻撃により甚大な被害を受けたが、政治指導者の殺害は避けられ、地上戦力も温存されたことで、体制転換のリスクには晒されなかったと論じた。

 しかし、今回のイラン戦争では様相が大きく異なる。

 米国とイスラエルは合同で2月28日からイランに対する軍事攻撃を開始したが、その最初手でアリー・ハーメネイー最高指導者を標的にし、これを殺害した。革命から47年、そして2代目の最高指導者として36年以上にわたって統治者として君臨してきたハーメネイーが敵国の手で強制的に排除されたことは、イランのイスラーム共和制にとって危機的な状況であることは疑いない。

 米国のドナルド・トランプ大統領は、開戦当日の演説において、イランの軍・警察には武器を捨てて投降するように、そしてイラン国民には米国が支援するので政府を掌握せよと呼びかけ、イランの体制を標的にする意思を明確にしている。もっとも、これはイランの体制転換を追求する戦争ではないとピート・ヘグセス国防長官は3月2日の記者会見で説明しており、軍事作戦上はイランのミサイル能力や核開発能力の破壊等が目標であると整理されている。

 米国の思惑が何であるにせよ、イランの政治体制がこの危機を乗り越えられるのか、あるいはどのように乗り越えようとするのかは、この戦争の帰結に大きく関わってくるだろう。1月に起きた大規模な反体制運動の熱も冷めない中、戦時下においてイランという国家のあり方が再び問われている。

最高指導者が殺害されても起きなかった権力の空白

 米国・イスラエルの対イラン攻撃は、昨年6月の12日間戦争同様、政治・軍事指導者を一網打尽にするところから始められた。2月28日の朝、テヘランの最高指導者事務所においてハーメネイー最高指導者が政府・軍の高官と会談しているところに、30発の弾道ミサイルが着弾する。正確な状況は不明だが、同日の攻撃によりハーメネイーの他、アリー・シャムハーニー最高指導者政治顧問兼国防評議会書記、アジーズ・ナシールザーデ国防相、アブドゥルラヒーム・ムーサヴィー参謀総長、モハンマド・パークプール革命防衛隊総司令官等が殺害され、イラン軍の中枢に深刻な打撃が加えられた。

 しかし、イランの意思決定は麻痺することはなかった。米国・イスラエルの攻撃からわずか2時間後にイラン軍はイスラエルや湾岸地域の米軍施設に向けて弾道ミサイル・ドローン攻撃を開始し、地域諸国を巻き込んだ全面的な反撃に動き出す。この対応の迅速さは、昨年の12日間戦争では攻撃を受けてからイスラエルに反撃を開始するまで18時間以上もかかったことと比較すると、対照的である。

 指導者不在にもかかわらずイラン政府が機能し続けているのは、

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
村上拓哉(むらかみたくや) 中東戦略研究所シニアフェロー。2016年桜美林大学大学院国際学研究科博士後期課程満期退学。在オマーン大使館専門調査員、中東調査会研究員、三菱商事シニアリサーチアナリストなどを経て、2022年より現職。専門は湾岸地域の安全保障・国際関係論。
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