「早苗旋風」の本質:高市総理は「日本のサッチャー」になれるか(前編)

執筆者:橋本五郎 2026年3月13日
タグ: 高市早苗 日本
国内外の難題を背景に、強いリーダーシップで現状を打開してほしいという国民感情があった[第2次高市内閣が発足した今年2月18日、大勢の報道陣に迎えられ官邸に入る総理](首相官邸HPより)
高市早苗総理の尊敬する政治家はマーガレット・サッチャー元英首相だという。二人の女性宰相は、どこが似ていてどこが異なるのか。前編ではまず、高市総理が圧倒的勝利を収めた衆院選を振り返る。

 

歴史的大勝をもたらした4つの要因

 2026年2月に行われた衆院選は、自民党の歴史的な大勝に終わった。316議席という数字がいかに驚異的か、歴史を振り返ればわかる。前回、自民党が300議席を超えたのは中曽根内閣の1986年。追加公認を含め304議席を獲得したが、この時の総定数は512議席で議席占有率は59%だった。今回は68%に上がったうえ、比例代表では名簿に登載していた候補者以上の当選者が出たため、14議席を中道改革連合(6議席)など他党に提供することになった。実際には330議席を獲得したことになる。因みにこれまでの戦後最多は2009年の民主党の308議席(占有率64%)である。

 それでは大勝の理由は何なのか。アトランダムに挙げてみよう。

(1)高市人気

 内閣発足以来70%前後の支持率を維持している高市早苗首相個人の人気が低迷にあえぐ自民党支持を押し上げた。自民党候補の多くが高市首相を前面に出して選挙戦を展開、功を奏した。その結果、現状不満を背景に以前なら野党に多くが流れていた無党派層の票を、自民党が引きつけることになった。読売新聞の出口調査によると、無党派層の27%(前回衆院選は15%)が自民党に投票、中道は15%(同25%)にとどまった。

(2)中道改革連合の失敗

 1人だけを選ぶ小選挙区制のもとでは、「敵失」も勝敗を左右する。後述するように、急ごしらえの突貫工事のごとく、政策の中身の議論も十分しないまま新党をつくった中道改革連合に対する期待の低さ、幻滅感に加えて、基本政策の突然の変更が中道候補者にとってさらに逆風となって響いた。

(3)小選挙区制効果

 中選挙区制から小選挙区制を採用した理由は、金のかからない選挙にすることに加え、直近の民意が直截に反映され、政権交代が可能になるということだった。劇的な変化は過去の選挙でも表れた。

 2009年衆院選では、自民党が公示前の300から119に激減。かたや民主党は115から308に躍進、民主党政権の誕生となった。2012年は逆に自民党が118から294に増えて第2次安倍政権が発足したのに対し、民主党は230から57にまで減った。特に小選挙区では、300の選挙区のうち237選挙区で自民党が勝利した。

 小選挙区のもとでは1票でも多ければ当選できるため、死票が多く出てしまうというマイナスがあるが、政治にダイナミズムをもたらす利点が大きいということで採用された。今回はその効果がはっきり出たと言っていいだろう。

(4)電撃的な解散

 通常国会冒頭の解散については厳しい批判がある。①国会でまったく議論もしないで解散するとは解散権の乱用であり、民主主義に反する②新年度予算の年度内成立が不可能になり、国民生活を犠牲にした③旧統一教会や政治とカネの疑惑を国会で追及されるのを恐れた「疑惑隠し」解散だ――など、要するに「大義」がないというものだった。

 しかし、大義などいくらでもある。少数与党で野党各党の要求をのまなければ一歩も政治が進まない状態で良いのか。新年度予算の成立が少々遅れても、安定した政権で強力に政策を進めた方が国民にとってプラスになる、と言うことも可能である。そもそも衆院に解散規定があるのは、できるだけ直近の民意を政治に反映させるためであるはずなのだ。罪深きはむしろ、「常在戦場」を口にしながら、冒頭解散はないものと油断し、選挙準備を怠った野党にあり、高市政権の継続を望まないならば、野党こそ解散を要求すべきだったのではないか。

「高市人気」の背景

 それにしてもなぜ高市氏は人気があるのか。

(1)強い信念と覚悟の有無

 高市解散は、郵政解散で大勝した小泉純一郎政権とよく類比される。郵政民営化の実現という具体的目標を掲げた小泉と、ほとんど実績のないまま解散に打って出た高市とは大きな違いがある。ただ、「構造改革なくして経済成長なし」の小泉と、「高市早苗が総理大臣でいいですか」と真正面から問う高市は、ともにブレない信念と覚悟の強さを訴えて成功した点で明らかに類似性がある。

(2)「強いリーダー」を求める心理

 国内的には物価高に苦しみ、いっこうに上がらない賃金に対する不満はマグマのようにたまっていた。強いリーダーシップで現状を打開してほしいという切なる国民感情があった。対外的にはトランプ関税や世界各地で紛争が続く国際情勢にあって、「強いリーダー」でなければ局面を打開できないという思いもあった。

(3)SNSを効果的に駆使

 YouTubeで配信された選挙関連動画では高市首相個人への注目度の高さは際だっていた。首相が「未来は自らの手で切り開くもの」と訴えた動画は、1億5000万回も再生された。選挙情報サイト「選挙ドットコム」によると、公示日の1月27日から2月5日までに投稿された衆院選関連動画の総再生回数は約18億6000万回に上った。約8割がYouTuberら第三者による動画であり、その多くが、高市氏が他党の代表らを言い負かした場面を切り抜いたものや、中国に毅然とした態度を示したことを強調する内容だった。
読売新聞の調査によると、投票先を決める際に、「SNS・動画投稿サイト」を最も参考にしたと答えた人は24%にも上った。高市首相を前面に出した自民党の選挙戦略は完全に功を奏したと言えるだろう。

中道の失敗は必然だった?

(1)「戦犯」再び

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」とは江戸時代の肥前国平戸藩の藩主松浦静山の言葉で、野村克也監督がしばしば引用、有名になった。今回の中道改革連合の大敗も、「野村の法則」の正しさを証明するものになった。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
橋本五郎(はしもとごろう) 『読売新聞』特別編集委員。1946年秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、読売新聞社に入社。論説委員、政治部長、編集局次長を歴任。2006年より現職。『読売新聞』紙上で「五郎ワールド」を連載するほか、20年以上にわたって書評委員を務める。日本テレビ『スッキリ』、読売テレビ『ウェークアップ!ぷらす』、『情報ライブミヤネ屋』ではレギュラーコメンテーターとして活躍中。2014年度日本記者クラブ賞を受賞。著書に『範は歴史にあり』(藤原書店)『「二回半」読む――書評の仕事1995-2011』(以上、藤原書店)『不滅の遠藤実』(共編、藤原書店)『総理の器量』『総理の覚悟』(以上、中公新書ラクレ)『一も人、二も人、三も人――心に響く51の言葉』(中央公論新社)『官房長官と幹事長――政権を支えた仕事師たちの才覚』(青春出版社)など多数。
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