関税制度の再編でさらに重要度を増す「原産地マネジメント」の必須ポイント
税率の「高低」を見るだけでは追いつけない
トランプ政権下の関税政策というと、「関税を上げる」というイメージが先に立つ。だが、いま起きている変化は、単純な関税率の引き上げではない。関税の適用範囲や根拠そのものが見直されている。
2026年2月、米国最高裁は、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act: IEEPA)に基づきトランプ政権が課した関税を違法と判断し、日本等の多くの国に課されていた相互関税などが無効となった。これを受け、ドナルド・トランプ大統領は、国際収支危機を理由に大統領権限で関税を課すことができる1974年通商法(Trade Act of 1974)第122条に基づき、全世界一律に10%の関税を課した。ただし、同条に基づく関税措置は原則150日以内に限られているため、今後同法第301条や1962年通商拡大法(Trade Expansion Act of 1962)第232条に基づく関税へと再編されていくことが見込まれている。
さらに2026年4月2日、ホワイトハウスは、通商拡大法第232条に基づく関税の適用方法を見直した。鉄鋼・アルミや銅に課されていた関税は、派生製品ではそれまで製品に含まれる金属部分の価値のみに課税されていたものを、製品全体の価値に対して課す仕組みに変更している。
米国の関税政策は、単に関税率を引き上げる局面から、どの法的根拠に基づき、どの範囲の価値を課税対象とし、どの国の産品に適用するかという、適用構造そのものを組み替える局面に入っている。同じ製品であっても関税負担が変わり、課税対象そのものも再定義されつつある。
適用根拠や課税対象が見直されるほど、企業にとって重要になるのは、単なる税率表の確認ではなく、自社製品がどの措置の対象となり、どの国の産品として扱われるかを見極めることである。そこで分岐点となるのが、「原産地」である。
米国事業の収益性を左右する「製品の原産地はどこか」
「原産地」とは、単なる輸出国を指すものではなく、一定のルールを満たした際に初めて付与されるものであり、そのルールが原産地規則である。
原産地規則は、大きく特恵原産地規則と非特恵原産地規則に二分される。特恵原産地規則は、自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)、一般特恵関税制度(GSP)などの貿易協定や特恵制度(以下、“FTA”として記載)に基づき関税の減免を受けるための基準、いわば「関税コストを低くするためのルール」である。一方、非特恵原産地規則は、最恵国待遇(MFN)税率の適用、輸入統計の作成、原産地表示の正確性の確保など、様々な局面で用いられる。「この製品をどこの国のものとして扱うか」を決めるルールであり、上述のトランプ政権における追加関税や、アンチダンピング関税措置(AD)、相殺関税措置(CVD)などの適用対象を判断する場合に用いられるのも非特恵原産地規則である。
従来は、FTAを活用して関税コストの減免を享受するために、自社の物品が特恵原産地規則を満たすか否かが多くの企業の主な関心であった。これに対し、現在の米国市場では、追加関税やAD/CVDなどの対象になるかどうかを分ける非特恵原産地規則にこれまで以上に注意を払わなければならない。つまり、原産地規則は「関税コストを下げるための措置」から、「追加関税を受けるか否かを分ける措置」としての重要性を増していると言える。
同じ製品であっても、原産地が中国と判断されるか、第三国と判断されるかにより、追加関税の適用有無が分かれ、輸入コストや粗利に大きな差が生じ得る。米国市場で価格転嫁が容易でない場合、その差はそのまま事業採算を左右する。
米国の原産地判定は「品目ごとの個別判断」という特殊ルール
特恵原産地規則は通常、FTAなどの国と国との決め事の中で個別品目について子細な規定が設けられている。これとは異なり、非特恵原産地規則は現在、各国が独自に規定している。法令に基づき品目ごとに一定の明確なルールが存在する国もあるが、米国における原産地判定は、品目別ルールが存在せず、「実質的変更(substantial transformation)」の有無に基づく個別判断が基本となることが大きな特徴である。「実質的変更」という、言わば抽象的な概念を適用することにより、サプライチェーンのわずかな違いが原産地の判断に影響し得る。結果として、企業にとっては単に規則を確認するのではなく、どのような判断がなされるかを事前に読み解くことが重要になり、実務上は、米国税関・国境警備局(CBP)が発出する税関裁定(Customs Ruling、以下“Ruling”)が重要な情報となる。
例えば、電子機器の主要な構成部品が中国で製造され、最終組立のみが第三国で行われる場合、主要な構成部品を組み立てるだけの工程であれば、製品の名称(name)、性質(character)、用途(use)に本質的な変化は生じないとして、当該第三国で「実質的変更」が起こったとは認められず、原産地は中国のままと判断された事例がある。結果として、中国が米国における非特恵原産地規則上の原産地となり、通商法301条に基づく追加関税の対象となる。
一方で、加工工程を第三国に移し、当該国で「実質的変更」が起こっていると認められれば、中国原産とは扱われず、同関税の対象とならなくなる。例えば、第三国において主要部品の製造(あるいは調達)、組み込み、機能の付加といった工程が行われ、製品の性能や用途に明確な変化が生じる場合には、「実質的変更」が起こったと認められ、原産地が当該国に移転する余地が生じる。
このように、同一製品であっても、工程配置の違いによって適用される関税措置が変わり得る。そのため、企業は過去のRulingの内容を分析した上で、自社製品がどのように評価されるかを検討することが求められる。
米国の仕組みは、一見、透明性が低いように見えるが、CBPが公表している過去のRulingを分析することで一定の透明性、予見可能性を確保することが可能である。重要なのは、固定的なルールに当てはめることではなく、どのように評価されるかを読み解くことにある。
追加関税には事後対応ではなく先手を打つ
近年、「サプライチェーンの強靭化」は多くの企業にとって重要な経営課題となっている。その議論はコストや供給安定性に偏りがちであるが、米国市場を前提とする場合には、「意図した原産地を取得できるか」という視点もまた求められる。
サプライチェーンの再設計は、単なる調達先の見直しではない。どの工程をどの国に配置するかによって、最終的にどの国が原産地として評価されるかが決まる。
意図した原産地を取得するためには、単に調達先や組立地を変更するだけでは足りない。まず、米国市場ではどの国が原産地として評価されることが望ましいのかを見定め、そのうえで、過去のRulingを分析し、どのような工程が「実質的変更」と評価されているのかを確認する必要がある。そこから逆算して、主要部材の調達、加工、組立、機能付加といった工程をどの国に配置するかを設計することが求められる。
例えば、中国で製造していた主要部品の一部工程を第三国に移し、非中国原産として評価されることを目指す場合、その第三国でどの程度の加工・機能付加を行うかが原産地判断に影響する。
同時に、その工程で生じる付加価値は関税評価額やグループ内取引における移転価格にも関係する。原産地だけを切り出して考えるのではなく、関税負担、税務リスク、取引価格、供給安定性を一体で設計する必要がある。
追加関税が課された後にCBPからRulingを取得したり、申告方法の見直しを検討するような事後的な対応も重要であるが、米国市場を重視する企業にとっては、より早い段階で、目標とする原産地、工程配置、調達先、取引構造を一体で設計することが重要となる。
したがって、サプライチェーンの強靭化は、コストや供給安定性だけでなく、「意図した原産地を取得できるか」という観点から設計される必要がある。通商、関税評価、移転価格といった論点は、この設計の中で相互に影響し合う。米国市場で収益を確保するためには、事後的に関税対応を行うのではなく、どの国が原産地として評価されるかを前提にサプライチェーンを構築することがカギとなる。どの工程をどこに配置するかという意思決定が、米国事業の収益を左右することになると言える。
