UAE「OPEC離脱」は「湾岸国際政治」激変の序章
Foresight World Watcher's 6 Tips
OPEC(石油輸出国機構)で第3位の産油国だったUAE(アラブ首長国連邦)が、5月1日に同機構から脱退しました。OPECとロシアなどの協調産油国で作るOPECプラスからも離脱します。カルテルとしてのOPECの影響力がどう変化するかに注目が集まりました。
1970年代には世界石油生産の半分超を占めたOPECですが、非加盟国の生産増により、現在では35%程度までシェアを下げています。さらにOPECの12%を占めたUAEが抜ければ、価格支配力が打撃を受ける可能性は高いと考えられます。ここに、湾岸油国がホルムズ海峡封鎖で輸出ができず、減産を余儀なくされる要因も加わります。
UAEがOPECを脱退するとの観測は、かねて伝えられてきたことです。その根幹には、OPECの事実上の盟主であるサウジアラビアとの生産割当量をめぐる軋轢があります。生産量を抑制することで価格維持を図るサウジに対し、UAEは増産による収益拡大を志向します。この戦略の違いから、近年のUAEは生産割当量を超過することを繰り返してきました。
ただ、脱退が現実化した背景には、イラン戦争による中東秩序の激変が大きく作用しています。UAEは第1次トランプ政権が主導した2020年の「アブラハム合意」でイスラエルとの国交正常化に踏み切ったように、米・イスラエルとのパートナーシップを深める形で安全保障を強化してきました。その結果、今回のイラン戦争ではイランの攻撃による被害をもっとも多く受けていますし、UAEはイランへの対応について、サウジの弱腰な姿勢に不満を募らせたとも伝えられます。
一方で、OPECによる原油価格維持方針を批判してきたドナルド・トランプ米大統領との“利害の一致”もあるでしょう。UAEはイスラエルの防空システム「アイアン・ドーム」を初めて供与された国になりましたが、UAEの米・イスラエルへの傾斜はさらに強まって行くと見られます。パキスタンと相互防衛協定を結ぶなど、安全保障に米国の代替を模索するかのような動きを見せるサウジとの違いは、こうしたところにも窺えます。
UAEとサウジの対立は、中東・アフリカ地域の情勢にも大きな影響を及ぼしかねません。イエメンではサウジが支援する暫定政権とUAEが支援する分離派勢力の衝突が続いていますし、スーダンの内戦も両国の“代理戦争”に近い要素があります。「アフリカの角」地域にも「UAE・イスラエル・エチオピア軸」とも言うべき新たな構図が結晶化しつつあると指摘されます。UAEのOPEC脱退について「長期的には原油供給が増えるので日本にとってプラス」との見方もありますが、日本の中東・アフリカ外交の今後を考えれば、課題も多く生む動きであるように思えます。
今回はこのUAEの脱退問題のほか、姿を見せないイランの最高指導者モジタバ・ハメネイ師の現状や体制の指揮系統、そして米中首脳会談が近づく中で改めて考えておきたい習近平体制・台湾問題・日中関係の重要ポイントを6本の記事・論考から取り上げました。
皆様もぜひご一緒に。
A New Era and New Leadership: The Generals Who Are Running Iran【Farnaz Fassihi/New York Times/4月23日付】
「『モジタバは最高権力者ではない。名目上、指導者ではあるかもしれないが、父親のような絶対的な権力者ではない』と、イラン国内に幅広い人脈を持つ国際危機グループ[ICG。本部ブリュッセル]のイラン担当ディレクター、アリ・バエズは述べた。『モジタバは革命防衛隊に従属している。なぜなら、自身の地位も体制の存続も、すべて彼らのおかげだからだ』」
「戦争初日に[アリー・]ハメネイ氏が殺害されたことで、空白と機会が生まれた。その後に続いた後継者争いにおいて、革命防衛隊はモジタバを支持して結束し、彼がイランの第3代最高指導者に選出されるうえで決定的な役割を果たした」
「新たに就任した最高指導者は将軍たちの意向に従い、異議を唱えることはほとんど、あるいはまったくなかったと、彼ら[当局者ら]は語る」
米「ニューヨーク・タイムズ(NYT)」紙の「新たな時代と新たな指導者層――イランを動かしている将軍たち」(4月23日付)は、負傷したイランの新指導者、モジタバ・ハメネイの現況をスクープして話題を集めたが、読みどころは他にもある。タイトルが示すように、イランの「新たな指導者層」についてのリポートが詳細なのだ。
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