米中対立下で変化するASEANの「競争環境」と日本企業の「勝ち筋」

執筆者:福山章子 2025年11月29日
エリア: アジア
日本政府はアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を推進し、域内のエネルギー・トランジションの取り組みを後押ししている[AZEC首脳会合に出席する各国首脳ら=2025年10月26日](首相官邸HPより)
中国企業の生産拠点・販売拠点の移管先として、そして市場としての存在感を強めているASEANは、もはや「日本企業の牙城」から様変わりした。ここに新たな商機を見出すカギは、「ルール・メイキング」と「共創」だ。日本企業の相対的優位は、高付加価値な製品・サービスが選択されやすいルールをASEANと共に導入することで浮かび上がる。日本、中国、ASEANで共通した重点分野の代表であるグリーン分野を例に考察する。

米欧の対中高関税で浮かび上がるASEANの存在感

 米中対立は、一部で緊張緩和の動きがあるものの依然として収束の見通しが立たない。互いに賦課する追加関税も維持したままだ。EU(欧州連合)も中国から輸入する電気自動車(EV)等に追加関税をかけ、さらに鉄鋼への追加関税も計画している。これらの動きは当事国・地域のみならず、他の地域の企業活動にも影響を与える。中国企業は高関税が賦課された米欧市場への依存を減らすため、新たな生産拠点と市場の確保に動いている。その代表が東南アジア諸国連合(ASEAN)だ。

 米国は第一次トランプ政権で中国からの輸入品に対して追加関税を賦課し、相対的に対米関税が低いASEAN各国は「漁夫の利」を得ているとされてきた。しかしながら、第二次トランプ政権は中国製品が他国を「迂回」して米国に入ることを警戒し、迂回輸出と判断した場合にはさらなる追加関税や罰金を課すとしている。このようななかで、中国企業がASEANを米国向け輸出の単なる迂回経路と捉えることは難しくなった。中国と地理的にも近いASEANは中国企業の生産拠点・販売拠点の移管先として、そして市場としての存在感を強めている。かつて日本企業の牙城とされてきたASEANの競争環境が大きく変化している。

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カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
福山章子(ふくやまあやこ) オウルズコンサルティンググループ チーフ通商アナリスト。経済産業省、デロイトトーマツコンサルティングを経て、現職。国際貿易投資研究所客員研究員、米国研究会委員、EUデジタル研究会委員。輸出入通関実務、通商ルールの読み解き、国際情勢の分析等、通商・地政学リスク・経済安全保障分野に幅広く精通している。共著に、『ビジネスと地政学・経済安全保障』、『稼げるFTA大全』(いずれも日経BP社)などがある。
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